音楽化社会の現在 統計データで読むポピュラー音楽 書評|南田 勝也(新曜社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年9月14日 / 新聞掲載日:2019年9月13日(第3306号)

音楽化社会の現在 統計データで読むポピュラー音楽 書評
音楽化社会の変化によって、人々の意識や生活はどう変わったのか

音楽化社会の現在 統計データで読むポピュラー音楽
著 者:南田 勝也、木島 由晶、永井 純一
編集者:小川 博司
出版社:新曜社
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 タイトルにある「音楽化社会」、これが基調を成している概念であるので確認しておこう。

本書の編著者の一人である音楽社会学者の小川博司が一九八八年の著書『音楽する社会』で提唱した言葉で、同書から引くと「社会的コミュニケーションの中で、音楽の占める部分が増大する過程にある社会」とされる。

音楽がそのようなポジションを占めるようになったのは、「電気的メディア(装置)」の力ゆえだ。「電気的メディア」とは、楽器やオーディオ装置、レコードやカセットテープ、CD、テレビ、ラジオなどで、要するに、音楽の受容にまつわるハードとソフトのことだ。小川はマクルーハンを援用し、電気的メディアを「クールなメディア」、すなわち人間の諸感覚を総動員するメディアと位置づけている。「メディアはマッサージである」という例のあれである。

新たなメディアが登場すると、それに適合した音楽が生まれ、聴取スタイルの選択肢を拡大する。新たな聴取スタイルは、それに適合した音楽を生み出す。メディアと聴取スタイルの変化によって音楽はその概念を再定義されていく。

こうした変化の相互作用が、電気的メディアとの共棲が所与の環境となった社会では絶え間なく起こる。そのような社会が音楽化社会である。

小川の議論は、七〇年代後半から八〇年代が対象だったが、九〇年代から二〇〇〇年代、二〇一〇年代にかけての音楽化社会の変化は、八〇年代が可愛く見えるくらい大きく激しい。インターネットの登場とその影響を考えるだけでも想像がつくだろう。

本書は『音楽する社会』の続編としての性格が強い。九〇年代以降の音楽化社会の激変によって、人々の意識や生活はどう変わったのかを調べるというのがテーマだ。調査対象期間は一九九二年から二〇一二年まで。二〇一二年というと、iPhoneの登場からは三年経つが、Spotifyが日本でサービスを開始するのはまだ四、五年先であり、さらなる大変化を控えた微妙な時期にあたる。

さて、似た言葉の「情報化社会」がそうであるように、音楽化社会についても、新しいモノやサービスが登場するたびに、さもすべてが塗り変わる「革命」が起こったかのように煽る論調が繰り返されてきた。

だが、そうした論の多くは「人びとが抱く未来への期待をテコにして駆動する人気商品」にすぎず、「指摘されていることがウソか本当かを前提としない点で、それはどちらかといえばSFやファンタジーに近いもの」でしかないと本書は釘を刺す。人々の意識や生活がどう変わったのかについても、思い込みで語られるばかりで、現実に即した調査や議論はないがしろにされてきた。

人々の意識や生活は実際のところどう変わったのか。それを実証的に突き詰めようというのが本書の目的だ。そのために著者たちが採ったのは、社会調査で定量データを集め、統計分析するという方法である。

「なんだ」と拍子抜けされる方が多いのではないか。でもこの社会調査の見直しあるいは回帰というのは、岸政彦・北田暁大・筒井淳也・稲葉振一郎『社会学はどこから来てどこへ行くのか』などを見ると、社会学が現在向かっている趨勢のひとつらしい。宮台真司に象徴される、ナントカ理論で森羅万象を斬るがごとき振る舞いが社会学のイメージになってしまったことへの批判と反省もそこにはあるようで、この『音楽社会化の現在』にも宮台批判が穏便な調子ながら顔を覗かせている。

設定された調査項目は次のようなものだ。

「現代人の音楽への接し方」「現代人の音楽の好み」「アーティストとファンの男女差」「音楽を介した友人関係」「世代とアイデンティティ」「音質へのこだわりとその行方」「音楽聴取の雑食性」「若者の音楽聴取スタイルの地域差」

個々の調査と分析に触れる余裕はないけれど、ここでもまた読者は拍子抜けするかもしれない。予想と分析結果にあまりズレがないことが多い、言い換えれば意外性が薄いからだ。だが地道な調査と分析というのはそういうものなのだろう。評者は研究者ではないが、漠然とあった予断に実証的な裏付けがなされ細部が補填されたことは評価されるべき成果に違いない。
この記事の中でご紹介した本
音楽化社会の現在 統計データで読むポピュラー音楽/新曜社
音楽化社会の現在 統計データで読むポピュラー音楽
著 者:南田 勝也、木島 由晶、永井 純一
編集者:小川 博司
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
「音楽化社会の現在 統計データで読むポピュラー音楽」出版社のホームページはこちら
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