古書市場が私の大学だった 古本屋控え帳自選集 書評|青木 正美(日本古書通信社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月14日 / 新聞掲載日:2019年9月13日(第3306号)

古書市場が私の大学だった 古本屋控え帳自選集 書評
多くの本と出会い、学んだ古書市場
具体的で生々しく、どこから読んでも面白いエピソード

古書市場が私の大学だった 古本屋控え帳自選集
著 者:青木 正美
出版社:日本古書通信社
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 葛飾区堀切で〈青木書店〉を営む青木正美さんは、これまでに四〇冊以上の著書を出してきた。以前、東京古書会館で「古本屋の書いた本」という展示があったが、これほど多くの著書を持つ古本屋は他にいない。本書は、『日本古書通信』で三〇年以上にわたり連載中の「古本屋控え帳」から選んだ八四篇を収録したものだ。

長年、古書市場(古書会館で開催される業者の交換会)に通って膨大な本を見て、買ってきた著者だけに、どのエピソードも具体的で生々しく、どこから読んでも面白い。

著者は二十代の駆け出しだった頃に、稀覯本が出品される明治古典会で島崎藤村の自筆原稿を落札する。夜間高校を中退し、娯楽本や月遅れの雑誌を商う下町の古本屋であることに劣等感を抱いていた著者は、それをきっかけに自筆本(原稿、書簡など)の蒐集に熱中する。古書市場では、背表紙のある本よりも原稿や資料の方が高く扱われる傾向がある。本書には藤村をはじめ、芥川龍之介、久米正雄、室生犀星、阿川弘之らの自筆本との邂逅が語られる。

ある人が残したスクラップブックには、戦後、文藝春秋新社と国鉄などが組んで人気作家を同行させた「文芸列車」の記事が貼りつけてあった。列車内で作家のサイン会が開かれる様子は、まるで現代のアイドルのバスツアーみたいだ。

また、ある日出品された『上林暁全集』には、病後の上林が左手で書いた葉書が付されていた。文中には著者がそれをいくらで落札したかまで記される(数字や年月が正確なのは、青年期から欠かさず日記を書いてきたからだ)。一方、石川達三の著作が市場で誰にも入札されないことから、石川が日記で志賀直哉や芥川龍之介を評価していないことに触れ、「石川はどの作家に対するよりも、自分にだけは甘かったようだ」と書く。

文章を書くことが好きで小説を志していた著者が、手本としていたのが小山清だった。「何しろ寡作で、活躍期十一年というのは、まだ私でも生きられる年月でないか」という理由はやや不純なようだが、率直だ。著者は市場で戸石泰一という人物が、小山清について書いた原稿を入手する。戸石は自身の小説が認められず、地味に見えた小山が太宰治の弟子とされることに嫉妬するが、最後には「小山君はやはり誠実であったのだ」と結ぶ。生身の小山清を描く貴重な資料だ。

小山清と言えば、名作『落穂拾い』以外にも『離合』など古本屋の出てくる小説を書いている。本書では他に、芥川龍之介『大導寺信輔の半生』、中野重治『歌のわかれ』などが「古本屋小説」として紹介される。また、つげ義春や古山高麗雄に対面したときの会話も記録されている。

多くの本と出会い、古本屋の諸先輩から学んだ古書市場を、著者は「私の大学」と呼ぶ。八六歳となり、ガンとの闘病中のいまも、著者は好奇心の赴くまま、「大学」に通って本を蒐め、調べ、書いている。私もその姿勢を見習いたい。
この記事の中でご紹介した本
古書市場が私の大学だった 古本屋控え帳自選集/日本古書通信社
古書市場が私の大学だった 古本屋控え帳自選集
著 者:青木 正美
出版社:日本古書通信社
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