社会学史 書評|大澤 真幸(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月14日 / 新聞掲載日:2019年9月13日(第3306号)

社会学史 書評
整理された社会学史の地図を描く
予想外の指摘と刺激に満ちた社会学の「講義」

社会学史
著 者:大澤 真幸
出版社:講談社
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社会学史(大澤 真幸)講談社
社会学史
大澤 真幸
講談社
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 新書としては異例の六三〇ページの分厚さに圧倒されるが、社会学の歴史を分かりやすく、さらに興味深く記述してあって、一気に読ませる。講談社の会議室で行った講義を基にしているとのことで、実際に講義を聞いているような臨場感がある。

社会学に限らず、歴史を語るのはいろいろな意味で難しい作業である。これは、いわゆる「歴史認識」がしばしば政治的な文脈で問題にされるように、何かの歴史を語ろうとすると、どうしてもさまざまな価値観や世界観、語り手の立ち位置のようなものが明らかになってしまうためで、社会学の歴史を語るためには、そもそも社会学がどのような学問で、そのもっとも中心的な問題が何であるか、といった根本的な認識が問われることになる。それ故、単独の著者が社会学の歴史を通して記述することは多くないのだが、著者の大澤は相変わらず鮮やかに、この難しい課題に答えている。

本書のねらいについて著者は、「初学者にも、専門家にも有意味なものになるように書いた。これから社会学を勉強しようと思っている人、まさに社会学を学びつつある人には、この学問の全体像をつかむ上で、きっと役に立つ。専門家にとっては、それぞれ探求している特定の分野の主題が、社会学という知の全体の中のどこにあるのか、どこからどこへと向かう知の過程のうちにあるのか、そうしたことを判断し、反省するための地図となるだろう」と述べている(「おわりに」六三一頁)。専門分化が著しい「この学問の全体像」を提供するとあっさり書いてあるが、それがどれだけ困難な仕事であるかは、専門家でなくても十分想像できることであろう。もちろん、あくまで著者の視点から捉えた全体像ということになるが、これが十分説得的な像を結んでいることは、本書を手にとってみれば理解できる。

全体としては、社会学史を十九世紀の社会学誕生まで、十九世紀から二十世紀の世紀転換期、第二次世界大戦以後、と三つの山にわけるという標準的な構成になっているが、その中にルソーとゴフマンを対比させたり、ルーマンとフーコーに共通のロジックを見出したり、と予想外の指摘が次々と登場し、一見地味な本書のタイトルとは裏腹に、大層刺激に満ちた「講義」になっている。

いくつも興味深い論点があるが、例えば、社会学がいつから始まるか、という問題について本書は丁寧に考察している。多くの社会学の教科書は、十九世紀に社会学sociologieという言葉を作ったオーギュスト・コントから始まるが、本書はアリストテレスまで遡り、アリストテレスの議論を社会学と呼べるか、あるいは、ホッブズ、ロック、ルソー、スミスらの議論は社会学とどこが重なっていてどこが異なっているか、をかみ砕いて解説している。結局、この問いに答えるためには、社会学固有の主題にむけた探求が開始されているか否かを確かめなければならず、本書はそれは「社会秩序はいかにして可能か」という問いだ、と論じている。この規定自体は、パーソンズやルーマンの議論にも重なるオーソドックスな議論ではあるが、隣接領域との差異をこのように丁寧に提示してくれるテキストは実は多くない。

また、ヴェーバーを中心とした社会学確立期の「巨人」の扱いについても触れておきたい。ヴェーバーの神経症の話は有名だが、これを「時代の病」として同時代の学問の状況に位置づけていることは本書のハイライトのひとつだろう。映画『ベルリン・天使の詩』に出てくる天使は無力な傍観者に留まらざるをえない存在だが、社会学者もこの天使のような禁欲的な立場にありながら、同時に神になろうとしており、その矛盾にさらされる経験こそがヴェーバーの病であった、と論じている。この解釈には異論もありうるだろうが、このような整理された地図を描いてくれるところが本書の大きな魅力と言えよう。
この記事の中でご紹介した本
社会学史/講談社
社会学史
著 者:大澤 真幸
出版社:講談社
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