作られた不平等 日本、中国、アメリカ、そしてヨーロッパ 書評|ローベル・ボワイエ(藤原書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年12月2日 / 新聞掲載日:2016年12月2日(第3167号)

作られた不平等 日本、中国、アメリカ、そしてヨーロッパ 書評
平等な社会の実現に向けて 多角的な視点から各国の不平等を論じた好著

作られた不平等 日本、中国、アメリカ、そしてヨーロッパ
出版社:藤原書店
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2016年11月8日、アメリカ大統領選挙において、ドナルド・トランプ氏が勝利を収めた。当選が有力視されていたヒラリー・クリントン氏を抑えての勝利だったため、世界に混乱が走り、日経平均株価は一時、1000円以上の値下がりを見せた。これは、6月のイギリスEU離脱決定時と同様の衝撃だった。こうした世界情勢の予想外の変化は、世界に「不平等」が広がっていることに起因すると言われている。本書では、社会に蔓延する「不平等」問題の解決策をレギュラシオン学派の権威である著者が詳細に解説している。

本書は、様々な先行研究や政府統計資料を用いて、世界各国における不平等問題の歴史・解決策を具体的に提示している。はじめに、ミクロ的視点とマクロ的視点の双方からアメリカにおける経営者報酬高騰に代表される所得格差の拡大が分析される。次に、2013年にフランスで刊行、2014年には英語訳版や日本語訳版が発表される等、世界的ベストセラーとなったトマ・ピケティの『21世紀の資本』の学術的貢献と限界が記述される。さらに、中国やラテンアメリカ、EU諸国、そして日本における不平等問題の歴史的変遷が示される。

特に興味深かった点として、最終章において示される日本における不平等の詳細な検討を挙げたい。冒頭では、先行研究が引用され、19世紀後半から21世紀初頭にかけての長期的なジニ係数の推移と所得最上位1%層の所得シェアの割合の推移が示されている。これらの時系列グラフから、日本における不平等は、1937年以前は非常に大きかったが、終戦や高度経済成長を経て、「一億総中流社会」と言われる程までに格差が縮小傾向にあったことが読みとれる。

しかし、現代に至るまで依然として残る格差の最たるものとして、男女間不平等が挙げられている。男女間賃金格差に関しては、所得の下位20%では25%、上位20%では35%も存在している。本書の言葉を借りると、「男女の大学進学比率は同等」にも関わらず、「企業の高給管理職や国家の要職の就任においても見られる」ように男女間の不平等は根強い。こうした問題点はこれまでも指摘されており、1985年に制定、1986年に施行された男女雇用機会均等法に代表されるような「男女平等を押し進めるための立法努力」もなされてきた。そのため、本書図5―18に示されているように、学歴計の男女間賃金格差は1985年には約60%存在していたが、2011年には約30%まで縮小している。しかし、本書では、男女間賃金格差は依然として存在している点が強調されている。また、日本の女性労働力率はOECD諸国と比較しても低い水準であり、「そのことに示される能力の損失」を意識すべきだとしている。

本書では、こうした男女間不平等の解決策として、賃金形成制度の再編と女性の労働供給促進が提示されている。

まず、賃金形成制度については、「賃金のフレキシビリティ」を減らす必要があると述べられている。先行研究が引用され、第二次世界大戦以降、団体交渉や所得政策によって名目賃金の硬直性が保たれていたが、製品市場での競争圧力によって、名目賃金の低下傾向が続いたことが提示されている。その上で、男女間賃金格差は「賃金のフレキシビリティ」にも起因するため、本書では具体的な方法は明示されていないが、賃金形成制度の再編が有用であると述べられている。

さらに、女性の労働供給促進も必要不可欠であると強調されている。日本における合計特殊出生率の低さは、女性が子育てをしながら仕事を継続することの難しさを反映していると議論されている。また、男女間の大学進学率に差はほとんど見られず、女性は男性と同等の職業訓練を受けているにも関わらず、女性の労働参加率の低い日本は、「女性の才能を断ち切って」しまっていると述べられている。かつての北欧諸国で見られたように、女性の労働参加率の上昇は「成長の強力なエンジン」となるため、女性が労働市場でのキャリアを継続することができるようになれば、男女間不平等は縮小するという見解が提示されている。

本書は多角的な視点から各国の不平等問題を論じた好著である。提示されている解決策が実際に施行され、より平等な社会が実現することを願ってやまない。
この記事の中でご紹介した本
作られた不平等 日本、中国、アメリカ、そしてヨーロッパ/藤原書店
作られた不平等 日本、中国、アメリカ、そしてヨーロッパ
著 者:ローベル・ボワイエ
出版社:藤原書店
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