50年後にも読まれる21世紀の「作家論」を目指して シリーズ「アメリカ文学との邂逅」(諏訪部浩一監修、三修社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年9月20日 / 新聞掲載日:2019年9月20日(第3307号)

50年後にも読まれる21世紀の「作家論」を目指して
シリーズ「アメリカ文学との邂逅」(諏訪部浩一監修、三修社)刊行を機に

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 三修社から「アメリカ文学との邂逅」と題されたシリーズが刊行開始された。アメリカ文学者・諏訪部浩一氏を監修者に据え、20世紀以降のアメリカ文学の面白さを伝えるシリーズとなっている。既刊の『カート・ヴォネガット』『トマス・ピンチョン』『チャールズ・ブコウスキー』各巻の執筆者には自身の著書について、またアメリカ文学者で第16代日本アメリカ文学会会長を務めた巽孝之氏にはシリーズへの推薦の言葉を寄せてもらった。  (編集部)
第1回
内外の先行研究に果敢に挑戦
シリーズの続刊が待ち遠しい


我が国の英米作家論シリーズには、長い伝統がある。

古くは戦前、1930年代に国際詩人ヨネ・ノグチ(野口米次郎)が自らの最大の霊感源たるエドガー・アラン・ポーを論じた巻(1934年)を含む研究社の英米文学評伝叢書が知られていよう。日本英文学会が結成されたのが1928年、第一回大会が開かれたのが29年だから、30年代は日本における英米文学研究の黎明期に当たる。ゆえに本シリーズも文学の批評的分析というよりは作家と作品の徹底紹介に主眼が置かれており、一巻百ページそこそこという体裁だから、今日ならばこれはあくまで英米文学必携の類に属する。

本格的な作家論シリーズの起源は、1970年代後半から80年代に至るまで、冬樹社がぞくぞく刊行していた英米文学作家論叢書に定めるのが妥当だろう。まずは当時、 1970年代の翻訳隆盛による英米文学人気を承けたラインアップが目を惹く。アメリカ文学では、主要作家に当時第一線だった学者研究者が配置されているのである。例えばポーは八木敏雄、ホーソーンは酒本雅之、メルヴィルは杉浦銀策、ウィラ・キャザーは佐藤宏子、バーナード・マラマッドは岩元巖、ソール・ベローは渋谷雄三郎、それにテネシー・ウィリアムズは石塚浩司といった具合に。その大半が昭和一桁生まれ、つまり日本英文学会が発足し前掲研究社英米文学評伝叢書が刊行され始めた1930年代の生まれで、本叢書が出発した時にはすでに五十歳前後。学会においても学内においても研究・翻訳の双方ですでに多くの業績を挙げ、まさに脂の乗り切った年代のお歴々が満を持して次々と放った各巻は、いずれも執筆者各人が長く親しんだ作家について、膨大な資料を導入した包括的紹介を行い、作品に斬新な批評的分析を施したもので、実に読みごたえがあった。とりわけ杉浦氏が当時の北米文壇で快進撃を続けていたジョン・バースやトマス・ピンチョンらの20世紀ポストモダン文学の視点からメルヴィルら19世紀ロマンティシズム文学を再解釈するというスリリング極まる離れ業を展開していなかったら、今日の私自身の専門であるアメリカン・ルネッサンス研究も相当に違ったものになっていただろう。

それから30年以上の歳月を経て、ここに登場した21世紀初の作家論シリーズ「アメリカ文学との邂逅」は 主として20世紀後半のポストモダン作家に狙いを定め、1970年生まれの諏訪部浩一の監修の下、彼自身のカート・ヴォネガット論を皮切りに同世代の永野良博のトマス・ピンチョン論、1980年代生まれの坂根隆広のチャールズ・ブコウスキー論が次々に刊行されたところだ。それぞれ作家の詳しい評伝や一次資料、二次資料の膨大な書誌目録も備えてはいるが、最大の読みどころは、国内外の先行研究へ果敢に挑戦し各作家の全作品を精読し巧みに切りさばくその調理法だろう。

前掲冬樹社の執筆陣に比べるならば、その子女に等しい年代、あるいは孫に等しい年代の若い執筆陣が、しかし先行世代同様、あるいはそれ以上の熱気をもって自身の熟読してきた作家について思うぞんぶん語り尽くすさまは爽快だ。執筆者の大半がいずれも北米ないし国内の大学における文学博士号(Ph.D.)の取得者であるのも、シリーズ全体の高品質を保証する大きな特徴である。

時代が変わり、世代が変わっても、アメリカ文学を読む楽しさは何ら変わることなく受け継がれていく。続刊が待ち遠しい。(たつみ・たかゆき=慶應義塾大学教授・アメリカ文学)



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この記事の中でご紹介した本
カート・ヴォネガット トラウマの詩学/三修社
カート・ヴォネガット トラウマの詩学
著 者:諏訪部 浩一
出版社:三修社
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トマス・ピンチョン  帝国、戦争、システム、そして選びに与れぬ者の生/三修社
トマス・ピンチョン 帝国、戦争、システム、そして選びに与れぬ者の生
著 者:永野 良博
監修者:諏訪部 浩一
出版社:三修社
以下のオンライン書店でご購入できます
チャールズ・ブコウスキー  スタイルとしての無防備/三修社
チャールズ・ブコウスキー スタイルとしての無防備
著 者:坂根 隆広
監修者:諏訪部 浩一
出版社:三修社
以下のオンライン書店でご購入できます
「チャールズ・ブコウスキー スタイルとしての無防備」出版社のホームページはこちら
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