移民政策とは何か 日本の現実から考える 書評|髙谷 幸編(人文書院)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年9月21日 / 新聞掲載日:2019年9月20日(第3307号)

移民政策とは何か 日本の現実から考える 書評
多様な問題を体系的に論じる
岐路に立たされている私たちに必読の一冊

移民政策とは何か 日本の現実から考える
著 者:髙谷 幸編
出版社:人文書院
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この二〇一九年四月から「特定技能」による「外国人材」の受け入れが始まり、日本社会は「移民労働政策」へ舵を切ったかのように騒がれている。それに合わせて、「移民」を主題とした書籍や特集雑誌が洪水のように刊行された。本書はそうしたなかの一冊になるが、しかしその大量の類書から本書を区別するのは、移民労働にまつわる多様な問題を体系的に一〇章にテーマ化し、それぞれの専門家が相互に他章を参照しつつ掘り下げて論じている点だ。

雑誌の特集は(私も執筆することがあるのでよく分かるが)、各執筆者任せの寄稿になりがちで、体系的に論じにくい。他方で、一人のルポライターが書き下ろした一冊はその一人の知見に限定され、また一人の価値観が押し出されがちである。それに対し本書は、たんに労働という観点にとどまらず、ジェンダー、教育、社会保障、法制度史、排斥運動など現実的かつ具体的な論点について、最も適切な専門家が執筆協力し、章によっては共筆となっている。細心の配慮がなされていることが窺える。

また、本書の編者である非正規移民研究者の髙谷幸氏の「あとがき」によると、企画段階から、国際社会学・移民研究者として稲葉奈々子氏と在日外国人研究者として樋口直人氏が関わって本書を作成しており、実質三人の編集と言えるらしい。三人ともに具体的なフィールド調査の経験とそれに基づく研究業績が豊富であり、本書をいっそう信頼できるものとしている。

さて、日本の政府と経済界が欲しているのは、都合よく安く使えて切り捨てのできる「労働力」であり「外国人材」である。人間としての「労働者」や、日本社会の一員となる「移民」としてではない。使用する呼称にその本音が透けて見える。しかし実際に来日して働いているのは、やはり生身の人間、つまり生活者なのだ。その視点を欠いているところに、日本の技能研修や特定技能の政策に決定的な問題点がある。生きている以上は、肉体があり、家族があり、日常がある。そこを捨象したただの「労働力」など非現実的であり、人権侵害が発生するのは制度設計上の欠陥と言える。

そうした観点では、上記の実質編者たる髙谷・稲葉・樋口の三氏共筆による第2章「ジェンダー」、多国籍労働組合で活動する奥貫妃文氏による第4章「社会保障」、中学校教員や教育委員の経験のある榎井縁氏による第5章「教育」は、とりわけ切実かつ具体的な課題であり、どれだけ政策立案者と雇用主とそして日本国民が身勝手で非人間的であるかを痛感させられる。早晩、制度は破綻し対応が迫られるだろう。

私たち自身の人権意識と社会設計が問われているのだ。このままでは人権侵害が横行し、経済力も後退し、労働者が海外から集まることもないだろう。日本社会は多様性も創造力も公正さも失っていくことは不可避だ。その岐路に立たされている私たちに必読の一冊と言える。
この記事の中でご紹介した本
移民政策とは何か 日本の現実から考える/人文書院
移民政策とは何か 日本の現実から考える
著 者:髙谷 幸編
出版社:人文書院
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