平成時代 書評|吉見 俊哉( 岩波書店 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月21日 / 新聞掲載日:2019年9月20日(第3307号)

平成時代 書評
失敗の博物館から何を学ぶか
平成を失敗の時代として総括する

平成時代
著 者:吉見 俊哉
出版社: 岩波書店
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 平成を失敗の時代として総括する一冊。一九五七年生まれの著者はバブル期を青年として過ごし、平成のあいだに東京大学の副学長までつとめた。日本のエリート育成機関の運営者であり、また現役の教育者である。彼も日本国民であれば、主権者の一人でもある。その著者がみずからも担ってきたこの国の三〇年は失敗だったという。

本書は第一章から順に平成の経済、政治、社会、文化について足早に紹介する構成だ。前半は政治経済の失敗を列挙する。社会と文化について語る後半も失敗を列挙するのかといえば、そうではない。社会には個別の失敗があるとしても、社会全体の失敗や文化の失敗などない、と明記するのは潔い。それでも「おわりに」と「あとがき」で、やはり平成は失敗の時代だったと断言する。どういうことなのか。

本書は次の逸話から始まる。数年をかけて建造された当時最大の戦艦が、進水した途端に沈没したという一七世紀スウェーデンの「失敗」、ヴァーサ号事件だ。現在、海底から引き揚げられた沈没船は博物館に展示されており、著者は本書をそのような失敗の博物館として書いたという。ヴァーサ号の船長や船員、建造に携わった職人たちに致命的なミスは認められなかった。巨大すぎる戦艦を建造するという計画がそもそも誤っていたのだ。職人たちの働きは部分最適でしかなく、戦艦の進水という全体最適に結びつかなかった。何かしらの失敗とは、その全体の計画の失敗なのだ。

戦艦は当然、海に浮かぶことが最低限の成功だ。だが日本の成功とは何なのか。いや平成と日本の、その全体の計画とはなんだったのか。

昭和の成長を経てバブルが崩壊し、平成の経済はたしかに失墜した。それを失敗と断言するとき、著者は暗に昭和の中流社会が想定していた繁栄の実現を計画として前提している。

著者はたびたび少子化現象に言及し、日本消滅を予測する。「日本社会が現在の民族構成を維持して安定的に持続していくこと」は難しいのだと。そこで消滅を危惧されているのは昭和の民族的同質性の高い中流以上の人々の未来だ。

現在の民族構成を維持するのではない社会とは、たとえば移民を受け入れる社会だ。その必要が無視できない社会が到来している。これはひとつの成功だ。移民の受け入れは容易ではなく、確実に軋轢を生じさせる。その軋轢をうけとめることが新しい計画になるだろう。

政治面では、昭和に確立された体制が改革によって混乱期に入った。平成はその混乱の収拾に三〇年がかりでとりくんだ時代だ。その収拾には三〇年では足りないことがあきらかになった。改革はまだ途上である。

部分最適を無視することは、全体を見通し新しい計画を夢みる意欲を削ぐ。学習的無気力を促進するだけだ。平成とは、たしかに重大事件と失策の連続によって時代そのものが失敗だったと言いたくなる時代だった。失敗の博物館から何を学ぶかが問われている。
この記事の中でご紹介した本
平成時代/ 岩波書店
平成時代
著 者:吉見 俊哉
出版社: 岩波書店
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