ホワイトネスとアメリカ文学 書評|安河内 英光(開文社出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年12月2日 / 新聞掲載日:2016年12月2日(第3167号)

ホワイトネスとアメリカ文学 書評
アメリカにおける人種問 題の捉え方の視座を提供

ホワイトネスとアメリカ文学
出版社:開文社出版
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最近のニューヨーク・タイムズ紙に、昨年アメリカ国内で起こったヘイト犯罪の件数が、前年よりも六%上昇したことを報じる記事が掲載された(オンライン版、二○一六年一一月一四日付)。記事では、ヘイト犯罪の原因の六○%近くは被害者の人種およびエスニシティ、二○%が宗教的偏見、一八%が性的指向であることが示されていた。このデータは人種問題の根深さを示しているといえよう。

「人種」を語るとき、多くの場合その対象は「有色人種」であろう。それはすなわち「白人」を基準としたときに「有色」とされる人々を「人種」の枠に入れることに他ならない。それ故に「白さ」「白人」は長らく「不可視」であった。そこに疑問を呈したのが、一九八○年代から登場したホワイトネス研究である。本書『ホワイトネスとアメリカ文学』は、ホワイトネス研究を方法論として用いながら、「従来白人〈ホワイトネス〉が中心(主体)で非白人〈非ホワイトネス〉を客体(他者)として見る立場」を反転させることを目的とした八本の論文が収録されている。

本書は編者のひとりである安河内英光による、ホワイトネス研究史で幕をあける。安河内は白さのもつ支配的な言説を概観した後に、『白鯨』の「鯨の白さ」に言及し、白さがもつ「矛盾と分裂」を指摘する。続く銅堂恵美子のモリスン論では、『ビラヴド』における所有概念が取りあげられ、人種を通して見る法の恣意性、所有する側と所有される側の不安定な境界が鮮やかに考察される。内田水生のヘミングウェイ論では、『エデンの園』の白人女性キャサリンの人種意識と、人種異装であるミンストレルショーを結びつける。それはヘミングウェイ自身が抱いていたであろう白人男性としての不安へと繋がっていく。フィッツジェラルド『夜はやさし』を題材にした高橋美知子の論考は、アイルランド系カトリックの血を引くフィッツジェラルドが描く、アメリカにおけるアイルランド人の不安定な人種的位置づけを看破する。

岡裏浩美は、アーサー・ミラーがイタリア系アメリカ人移民を扱った戯曲『橋からの眺め』を取りあげる。ここでは人種とセクシュアリティの問題が複雑に絡み合う様が丹念に論じられ、イタリア系のもつ「不安定な白人性」が追求される。ジェイムズ・ボールドウィン『もう一つの国』を論じる永尾悟は、「黒人存在を媒介として構築される白人たちの人種意識」をあぶりだす。南部と北部をめぐる地理、セクシュアリティの問題を通じて、白人男性と黒人男性の人種的「共依存性」を鮮やかに論じる。

藤野功一によるフランシス・ハーパー『アイオラ・リロイ』論は、読み応えのある論文が揃った本書の中でも、とりわけ印象に残る。ハーパー作品に見られる「経験」の重要性が、同時期に「経験」を基盤とした問題意識を持っていたウィリアム・ジェイムズのプラグマティズムと接続される本論は、ハーパー研究に新たな可能性をもたらした。最後を飾るのは、トウェインのインディアン観の変遷を論じた田部井孝次の論考である。当初インディアンに対して憎悪を表していたトウェインが、一八八○年代を経て自らの人種観を変化させる。本論はトウェインの決して単純ではない人種観を考える上で重要な手がかりを示す。

アメリカにおける人種問題は、今後むしろ増えていくかもしれないという危惧の念を抱く昨今だが、そうした問題をどう捉えていくべきか、本書はその視座を提供してくれる。
この記事の中でご紹介した本
ホワイトネスとアメリカ文学/開文社出版
ホワイトネスとアメリカ文学
著 者:安河内 英光
出版社:開文社出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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