紅茶の帝国 世界を征服したアジアの葉 書評|マークマン・エリス(研究社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年9月28日 / 新聞掲載日:2019年9月27日(第3308号)

紅茶の帝国 世界を征服したアジアの葉 書評
異国からやって来た植物に、いかにして英国の人々の生活と心が征服されたか

紅茶の帝国 世界を征服したアジアの葉
著 者:マークマン・エリス、リチャード・コールトン、マシュー・メージャー
翻訳者:越 朋彦
出版社:研究社
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 ずっと気になっていた。なぜ日本では「のほほん」とほっと一息つくものの代名詞である緑茶を口にして、猿の幻影を見るようになってしまうのか。ジョウゼフ・シェリダン・レ・ファニュの名作怪談を読んで感じる居心地の悪さは、本書を読めば霧散する。一九世紀後半においてすら、英国では茶が人に与える影響がかまびすしく議論され、輸入される茶によくなされていた混ぜ物に対して警鐘が鳴らされていたのだ。そして、英文学者三人によって執筆されたこの茶をめぐる文化史、文明史、あるいは物語絵巻は、読んだら背景知識が手に入りますよ的な本では決してない。レ・ファニュの「緑茶」は、本文でちゃんと言及されている。本書は、中国で西洋人に見出された葉の浸出液からなる飲料が、いかにして英国の国民的飲料となり、さらには世界中に流通するようになったのかを描き出しつつ、茶についてどのようなことが語られていたか、あるいは茶や茶にまつわる人々の習慣や振る舞いがどのように描かれていたのかを、一次資料にあたって綿密に描き出している。この書物は、茶をめぐる文学史、絵画史、戯画史、あるいはそれらのショーケースでもある。

茶についての一次資料に必ずあたるという執筆スタイルに伴うのは、茶にまつわる「神話」に対する容赦ない態度だ。キャサリン王妃が一七世紀後半に茶を飲む文化を英国に持ち込んだという話、ボストン茶会事件の背景と同時代に与えたインパクト、ヴィクトリア女王が口にしたとされる茶にまつわる有名な台詞……。はっきりした証拠がない俗説には明確に疑義が提示され、その時代には「実際に」どのようなことが語られ、描かれていたのかが示される。私が子供のころに耳にして長らく印象に残っていた、イギリスの紅茶は、緑茶が船で運ばれる間に赤くなってしまったことから生まれた、という「お話」は、緑茶と紅茶の茶葉が元来一つであるということに関して、一八世紀の後半に博物学者が激しい論争を展開していたという本書で詳らかにされる事実でとどめを刺される。

副題には「世界を征服した」とあるが、この書物で展開されるのはやはり、異国からやって来た植物の葉に、いかにして英国の人々の生活と心が征服されたかの物語である。客観的な記述にこだわってきた本書が、著者の三人がどのように日々茶と関わっているかの個人的な「告白」で終わるエンディングは、強い余韻を残す。その一方で、二〇世紀の後半以降に英国の茶文化が、ティーバックの登場や茶ブランドの多国籍企業による買収によって世界展開してゆく様子に関しては、経済の専門家による書籍が読みたい気分にさせられる。

「消費税」という言葉がかなり古い時代の税にも使われているなど気になるところはあるが、確かな学識に支えられ、元の英文が透けて見えず、豊富な日本語の語彙で溢れる訳文は秀逸だ。あとがきでは著者たちに関する的確な情報が提示され、各章の梗概まで準備されているので、まずはそちらを読んで興味ある章を読んでもいいかもしれない。しかし、やはり冒頭にある、一六世紀末の茶の標本の写真を目にするところから、本書を読み進めてゆくことを勧めたい。素晴らしい訳業を得たこの茶の物語は、そのように読まれるべきである。
この記事の中でご紹介した本
紅茶の帝国 世界を征服したアジアの葉/研究社
紅茶の帝国 世界を征服したアジアの葉
著 者:マークマン・エリス、リチャード・コールトン、マシュー・メージャー
翻訳者:越 朋彦
出版社:研究社
「紅茶の帝国 世界を征服したアジアの葉」は以下からご購入できます
「紅茶の帝国 世界を征服したアジアの葉」出版社のホームページはこちら
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