「幼稚園、はじめての日」|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

American Picture Book Review
更新日:2019年9月30日 / 新聞掲載日:2019年9月27日(第3308号)

「幼稚園、はじめての日」

このエントリーをはてなブックマークに追加
3『The Big Day at School - Little Bill』
Eleanor Fremont著/Michael Lennicx画
(Simon Spotlight/Nickelodeon)
どの分野であれ、アートは作り手の人間性や行動と作品を分けて考えるべきとされている。高潔で品行方正な人間のみが優れた作品を創れるわけではないからだ。だが、幼い子供を対象とする絵本の場合はどうだろうか。

本作は幼児向けの人気TVアニメ『リトル・ビル』を絵本化したシリーズの一冊だ。原作者はアメリカの国民的コメディアン/俳優だったビル・コスビー。コスビーは激しい人種差別が残る1960年代に黒人として初めてTVドラマの主役に抜擢され、スパイ役を演じた。年配層なら白人と黒人のクールなスパイ・コンビの活躍を今もよく覚えていると言う。1980年代にはシットコム『コスビー・ショウ』を製作、主演した。当時、メディアでは描かれることのなかった中流層の黒人一家を主人公とし、大ヒットさせた。

コスビーは黒人少年を主人公とする小説シリーズ『リトル・ビル』の出版も手掛け、後に主人公を幼稚園児に置き換えてTVアニメ化した。『コスビー・ショウ』同様、やはり中流の黒人家庭を舞台に、すくすくと育つ素直で無邪気なリトル・ビルの物語は人種を超えて全ての子供に愛され、7年間のオンエアとなった。このように多才で、かつ道徳的な発言も多いコスビーは、いつしか「アメリカのお父さん」と称されるようになった。

絵本化シリーズ6冊目の本作は、リトル・ビルが初めて幼稚園に登園する日の様子を描いている。先生が怖い人だったらどうしよう、お友だちはできるかな、お行儀よくできるかな……幼い子供の不安と、それがうまく解消される過程が巧みに描写されている。2003年の出版だが早くも多様化が盛り込まれており、日系の少女キクちゃんが「大きくなったら大統領になりたい」と言うシーンがある。他にも白人のアンドリュー、この回には登場しないが車椅子のモンティという友だちもいる。

『リトル・ビル』と共に育ち、今10~20代となっている大勢の若者に大きなショックを与えたのが、昨年のコスビー有罪判決だ。コスビーは長年にわたって多くの女性にデート・レイプ・ドラッグを飲ませては性的暴行、強姦を繰り返していた。名乗りを上げた被害者の数は60人を超える。コスビーは『リトル・ビル』を作りながら、私生活では想像を絶する悪行を働いていたのだった。ほとんどの事件が時効となっていたが一件が起訴に持ち込まれ、コスビーは有罪となり、今は獄中だ。『リトル・ビル』は絶版となり、米国図書館協会は学校の図書室からの排除を勧告している。(どうもと・かおる=NY在住ライター)
このエントリーをはてなブックマークに追加
堂本 かおる 氏の関連記事
American Picture Book Reviewのその他の記事
American Picture Book Reviewをもっと見る >
文学 > 外国文学 > アメリカ文学関連記事
アメリカ文学の関連記事をもっと見る >