鼎談=大野光明×小杉亮子×松井隆志 未来を築く運動史の探究へ 『運動史とは何か 社会運動史研究 1』(新曜社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年9月27日 / 新聞掲載日:2019年9月27日(第3308号)

鼎談=大野光明×小杉亮子×松井隆志
未来を築く運動史の探究へ
『運動史とは何か 社会運動史研究 1』(新曜社)刊行を機に

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大野光明氏、小杉亮子氏、松井隆志氏が編者の『運動史とは何か 社会運動史研究1』が新曜社から刊行された。「社会運動史研究」シリーズ創刊を機に、神保町の読書人隣りで五月、三者によるトークイベントが開催された。社会運動についてどのような研究が行われてきたか、本シリーズ創刊の経緯や問題意識、またそもそも社会運動とは何かということについて、その研究の今日的意義や魅力も含めて語っていただいた。その一部を載録する。           (編集部)
第1回
創刊の経緯と問題意識/紙と活字に残す重要性

大野 光明氏
大野  
 『社会運動史研究』第一号を今年二月、この三人で編集し立ち上げました。社会運動史研究に関する幅広い研究成果や記録、資料の紹介、インタビューなどを収めた新たなメディアです。社会運動史に関する研究や記録を蓄積し、広く公開していく場自体が必要だと思いました。社会運動史を研究している人、興味をもっている人たちを繋ぎ合わせる場を作りたいという思いもありました。これから年一回の刊行を目指したいと思っています。
また、このメディアは運動のようなものだとも思っています。自分たちの研究成果を出して終わりにはしない。編集のプロセスや、刊行後のプロセスのなかで、今日のイベントのように議論する場を設けたり、さまざまな人たちに参加していただいてこのメディアを育てていく。そのような運動を立ち上げたのだという思いがあります。
とはいえ、ハードコアな内容で、ある意味で、時代に逆行するメディアでもあると思います。それを、なぜ今やる必要があるのか。社会運動史研究という領域・実践は、大学の研究者だけがやるものではなく、もっと広がりのある営みであると思いますが、そうした広がりのある研究がどのように重要なのか。今日は議論していければと思います。
まず、三人がこれまでどういうことをしてきたのか、そして、なぜ社会運動史あるいは社会運動に興味を持ち研究しているのかを、自己紹介も兼ねてお話ししましょう。その上で、創刊の経緯や問題意識を、皆さんにお伝えしたいです。そして、最後に、この本、そして運動は、皆さんの力をいただきながらつづけていくものだと考えていますので、今後の展望や課題についてもシェアしていきたいと思います。では、小杉さんからお願いいたします。
小杉  
 私は今まで六〇年代後半の学生運動、特に東大で六八年から六九年に起きた大学闘争〝東大闘争〟について、当事者たちにインタビューをしながら研究してきました。なぜ学生運動の研究をしようと思ったのか。二〇〇〇年代前半に、自分自身が学生生活を送った時とはまったく違う光景が六〇年代後半の大学キャンパスにはあり、あの盛り上がりはなんだったんだろうと思ったのがきっかけでした。私は社会学を専門にしていて、インタビューなどの社会調査が重視される学問領域です。そういうこともあって、東大闘争に参加していた人たちに話を聞くことからはじめました。ただ、研究をはじめた一〇年前の時点で、社会運動史を意識していたのではなく、それは後からついてきたことです。

運動史を意識するようになったのには、ふたつのきっかけがあります。ひとつは、学会などで「なぜ昔の運動の研究をしているのか。しかも、いいものを残したかどうかもわからない運動の研究を?」と聞かれることが繰り返しあったからです。社会学の研究者には、今のことに関心がある人が多いんですね。だから、そういう問いを向けられるのだと思います。そこから、なぜ昔の運動にこだわって研究するのかを考えざるをえなくなったわけです。

もうひとつ。東大闘争参加者への聞き取り調査では、生い立ちから現在の地点までの話をうかがうのですが、たとえば語り手が家族の来歴を説明しようとして、その人が生まれる前まで話が遡ってしまうといったことが起きます。かれらの話を聞いていると、個人個人が持っている歴史的な背景の長さを垣間見られて、社会運動と歴史の流れは切り離せないことを実感できました。こういった体験から、歴史への関心が高まっていったんだと思います。私は過去の運動に関心があり、それを成り立たせた歴史的な流れに関心がある。そのことに気づいた時、同じようなテーマで議論できる場が欲しいと考えて、今回参加することになりました。
松井  
 私が運動史に辿り着いたのは、ひとつには、『社会運動史研究』に書きましたが、卒業論文で戦前共産主義者の「転向」問題を扱い、『運動史研究』という雑誌の存在に出会って、ジャンルとしての運動史を知った。もうひとつ、自分自身の関心のあり方としては、大学に入学する前後から政治や社会の問題を考えるようになったわけですが、それ以降のこの四半世紀、私が肩入れする側は負けてばかり。というより対抗勢力となるべき社会運動が弱り切っている。しかしかつてはそうではなかったらしい。では、昔と今は何が違うのか。あるいはなぜ現在のような運動が弱体化した社会になってしまったのか。そうした関心から、歴史的な探究を目指したのだと思います。

修士論文では六〇年安保闘争を調べました。「転向」問題と六〇年安保のふたつに取り組むことで、戦後の思想と運動の大きな流れに触れることができた。そして次第に六〇年代以降の社会運動史に取り組むようになりました。また、研究と並行して、運動との関りで、かつての運動当事者にインタビューする機会を与えてもらった。天野恵一さんと共同で、栗原幸夫さんや吉川勇一さんといった東京のべ平連関係者などに運動史的インタビューをしたことが重要な経験になりました。
私が『社会運動史研究』の立ち上げに参加した大きな理由のひとつは、前述のような経験を経て、記録を活字として残すことが重要だと思ったからです。自分自身『運動史研究』という雑誌に、図書館でたまたま出会えたことが決定的だった。ネット情報も重要でしょうが、書籍や雑誌のかたちで、物理的に堆積していくことの意義は大きい。当面読まれないかもしれないけど、いつか誰かがそれを手に取る可能性はある。そういう思いもあって、紙と活字のメディアを作りたかった。

運動史の本を読んでいると、一方で、単に記録の羅列になっているものがある。いつどこで誰が何をしたか。どういう決議があったか、デモで何人集まったか。そういう記述です。これは読んでいてもあまり面白みがない。他方で、運動を担った人物の英雄譚として描かれるドラマ仕立ての本があります。そういうのを読むと、その人たちをすごいとは思うけれど、自分に遠い存在としか思えない。このどちらでもない、もう少し生身の人間、自分と同類の人たちが悩み、考え、様々な試みと失敗を繰り返しながら、それでも運動をつづけていく。そういう軌跡の記録ならば、これからの時代の教訓や知恵にもなる。インタビューなどを通してそういう運動史を伝える場が欲しかったということです。
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この記事の中でご紹介した本
運動史とは何か(社会運動史研究 1)/新曜社
運動史とは何か(社会運動史研究 1)
著 者:大野 光明、小杉 亮子、松井 隆志
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
「運動史とは何か(社会運動史研究 1)」出版社のホームページはこちら
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