【横尾 忠則】死のシミュレーションと回復のティンカー・ベル|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
更新日:2019年10月1日 / 新聞掲載日:2019年9月27日(第3308号)

死のシミュレーションと回復のティンカー・ベル

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2019.9.16
 昨夜突発的事態発生。自分の躰に起こっていることのリアリティがわからない。ひとりでは立っておれない。取りあえず向いの水野クリニックの先生と夜中にコンタクトを取って時間外診察を受けるが、うちでは手に負えないと判断された水野先生が3日前まで入院していた国立東京医療センターの救命救急センターへ。事態を把握した病院側は、すぐ救急車で来院を要請。高熱のため意識朦朧状態で搬送される。妻、徳永同行。すでに深夜。待機していた病院の救急処置室に運ばれる。「39度は命に関わります。肺炎の可能性あります」と、抗生物質の点滴、その他(詳しくは不明)の応急処置が施されて、この間、CT撮影などなど、あわただしい時間が過ぎていく。「あゝ、人間が死ぬ時はこういう状態なんだろうなあ」と頭の隅で死のシミュレーションを繰り返す。応急処置などが終った時は、すでに日時が変っていた。

帰宅後は終日ベッドに釘づけ。苦痛取れず。
2019.9.17
 一日、明けたものの、まだ躰の異変は把握できないが、再入院の準備をしながら、国立東京医療センターの鄭先生を訪ねる(徳永同行)。15、16日の事態の一部始終はすでに鄭先生に報告されていた。喘息そのものはすでに退院時に安定していたと。

ところが、ここに至って、腹部にあまり経験しない痛みが、これも突然起こる。必ずしも喘息が完治していないこのタイミングに思わぬ伏兵が待ち構えていたのである。原因がわかるまで尿、採血、超音波検査などが行われる。ここでその結果を詳細に記しても読者には無関係のこと。まあ別の菌が躰の中で活動していたというわけ。広い院内を徳永の車椅子のガイドで終日移動して、再診の結果、再び木曜日に来診することになって、長い一日がやっと終った。
2019.9.18
 昨夜、何が理由か、ほとんど不眠状態。午前6時に朝食。昨日から少しずつ食欲が戻りつつある。食事のリクエストなどを考える余裕がでてきたようだ。

午後、無為

夕方、無為

夜、無為

瀬戸内さんから妻に電話あり。週刊朝日の対談書簡は語り下しでやってみたらと。

夕方から夜にかけて足のふくらはぎが、だるくて仕方ないので、妻に一時間以上マッサージを施術させる。

レンドルミンを服用して、先ず先ず寝つきよし。
2019.9.19
 小さい妖精のような、よく見るとレオタードをはいてる、その上に薄い透明のレースのような、それでよく見ると背中に薄いまるでトンボのような羽が2枚ついていて、ヒョイ、ヒョイと、ベッドの中に広げている資料などの間から、ビョンとぼくのお腹の上に飛び乗ってきて、そこで、羽をバタつかせて、ちょっと両方の指先で可愛いおちゃめなポーズを取ったかと思うと、ひょいと飛びはねた。そしてそのままその場からいなくなった。まるでスコットランド地方かどこかの妖精みたいで、背丈は5センチあるかないかの小さい子で、全身が、薄い金色に覆われていたと思った。この子は自分のことをピンカールと呼んだように思ったので、起きて辞書を引いたけれど、なかった。正確には「ティンカー・ベル」だと、歯を磨いている最中にはっきり「ティンカー・ベル」よと、ぼくの意識の中にちゃんと言葉として定着するように教えてくれた。

実に不思議な体験だった。もっとベッドをきれいに整理しておけばよかったと思ったが、もうあれっきりで二度と来るような気はしなかった。でもその「ティンカー・ベル」の全身の姿だけはしっかり脳裏に焼きつけたのでOK。彼女(?)がお腹の上に乗っかった時、これで身体は回復するようにぼくにとっては朗報になった。これから時々絵の中に「ティンカー・ベル」をこっそり秘密裏に描き込んでみよう。

徳永と国立東京医療センターの鄭先生を訪ねる。喘息はかなり良くなっている。今日は採尿の結果、心配していた前立腺は正常値。他に心配ごとがあったが、検査の結果全てパスする。これで一体どこが悪いのかと疑いたくなる。

夕方まで車椅子で院内を移動したり、広いロビーで休息をしたりする。味の濃い塩分の濃いシッカリしたものを食べて下さいと。早速、桂花のフカヒレの姿似のそばと、出前の寿司と、自家製ぜんざいをたっぷり過食。夜、萩原さんに出張マッサージ。足中心に2時間タップリ。
2019.9.20
 終日在宅入院。
2019.9.21
 朝日の書評が出ている。親指と人差指がくっついてペンが持てない。口述筆記の練習を始める。絵の口述筆記の方が面白そう。徳永が東京會舘地下の名物おはぎ差入れ。
2019.9.22
 今日も知人死す(今月18人)。

熱指動かず。

     

      在宅入院
口述筆記 

  サイダー。 

       無為。
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