連載 デンマークからの映画の再来  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 125|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年10月6日 / 新聞掲載日:2019年10月4日(第3309号)

連載 デンマークからの映画の再来  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 125

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フィリップ・ガレルとその娘、ドゥーシェ(左から)

HK 
 ラース・フォン・トリアーについて話をしたいと思います。正直なところ、僕は今までさほど、この監督を好きではありませんでした。『ドッグヴィル』の書き割りの演出やドグマ95のマニフェストのようにして、思想が先行している印象がぬぐえませんでした。ただ、最新作『ハウス・ジャック・ビルト』について、ドゥーシェさんから話を聞いた後、彼の作品を見返したり、過去のインタビューを読んでみたりすると、大きく見方が変わりました。ドゥーシェさんが昔から高く評価し続けていたのは知っています。「ラース・フォン・トリアーは、初めてカンヌで見た直後、大学に呼んで講演させた」と自慢げに語っていますね。
JD 
 はい。私が、初めてラース・フォン・トリアーの映画をみたのは、本当に初めの頃、カンヌ映画祭においてです。八〇年代初頭のことでした。
HK 
 おそらく『エレメント・オブ・クライム』ですね。エジプトの風景から始まる事件調査の物語です。
JD 
 その作品です。初めて彼の作品を目にした時から、素晴らしい映画監督が世に姿を見せたと感じました。
HK 
 その頃のラース・フォン・トリアーといえば、若手ながらにして、すでにデンマーク代表として、ヨーロッパの映画監督の会議に呼ばれたりしており、重要な位置を占めていました。たった数本の作品を撮っただけで、リリアーナ・カヴァーニなどと同じ会議に呼ばれ、緊張したようなことを本人が語っています。
JD 
 デンマークの映画を考えれば、彼がそのような扱いを受けても驚くことではありません。映画史の初期を振り返ると、デンマークやスウェーデンといった北欧の国々は非常に重要な映画を作り出し、世界中に影響を与えていました。
HK 
 今日でも『魔女』で知られるベンヤミン・クリステンセンや、『世界の終わり』で有名なオーガスト・ブロムの時代ですね。
JD 
 その通りです。デンマーク映画は、世界の映画においても本当に重要なものだったのです。とりわけ忘れてはならないのは、映画史における、最重要な映画監督の一人であるカール・テオドア・ドライヤーがいたということです。私にとってドライヤーは、溝口とルノワールと並び最重要な映画監督なのです。ドライヤーはデンマーク映画の中にいましたが、それ以上に大きな影響をスウェーデンのマウリッツ・スティレルとヴィクトル・シュストレムから受けています。ただ、デンマークにおける映画の歴史を考えると、ドライヤーですら活躍できたのは無声の時代だけです。
HK 
 無声の時代でも難しかったはずです。
JD 
 それは事実です。彼はドイツやスウェーデンを渡り歩きながら映画を撮るしかありませんでした。そして最終的にはフランスに来て、『裁かるるジャンヌ』と『吸血鬼』を撮った後には映画を撮れなくなってしまった。ドイツでナチズムが台頭し始め、デンマークの映画産業もその影響を受けずにはいられませんでした。ドライヤーは為す術もなく映画製作から離れて、ジャーナリズムの仕事をしなければなりませんでした。『怒りの日』を撮るまで一〇年近くにわたり映画を撮ることができなかったのです。その後も、映画史において真に重要な『奇跡』『ゲアトルーズ』のような作品を残していますが、作品を撮ること自体難しい状況に置かれていたのです。
HK 
 そして、ラース・フォン・トリアーのような映画監督が現れるまでには、更なる年数が必要だったのですね。
JD 
 そうです。ドライヤー以降のデンマーク映画からは、重要な映画作家が出てくることはありませんでした。そうした背景の中、ラース・フォン・トリアーが、デンマークだけにとどまらない、ヨーロッパの歴史を考えさせる作品をもって姿を現すことになったのです。彼の映画が最初期から物議を醸し出し、多くの敵対者を生み出してきたのは知っています。ただ、私は彼の映画が好きなのです。
HK 
 確かに、初期の三本は、ヨーロッパの文脈に置くと、非常に政治色が強いですね。

   〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテークブルゴーニュ)

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