日常の向こう側ぼくの内側
味覚障害? 食欲もあまりない。
夜、寝つき悪く、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー Part3』をベッドの中で観るが、これとて体力が必要。19世紀のアメリカの西部から未来(現代)に突入する瞬間は、H・G・ウェルズとジュール・ヴェルヌの合体アドベンチャーってとこ。ハチャメチャがいい。字幕入りなので難聴でも解る。
この間ベッドの中からひょいと現われたティンカー・ベルのあの不思議な存在が頭から離れない。本紙担当編集者の角南さんが調べてくれたことだけれど、ティンカー・ベルはベッドとパジャマがお気に入りとか。正にピッタリのシチュエーションだ。少女ならともかく83歳の老人の目の前で起った出来ごとは、客観的には説明できない。個人的体験ということになると、あれは幻視(イリュージョン)だったということになるのだろう。だけど、そんないい加減なビジョンではない。ぼくにとっては、あくまでも現実というか真実だった。
体力を試そうと牛歩で桂花のふかひれそばを食べに。外食もひと仕事である。
一時間以上かけて、桂花→事務所→喜多見不動堂→野川べり→ビジターセンター→神明の森→アトリエへと大旅行をした気分だ。
夕食は自家製ステーキ。好物なのでスラスラ食欲が出てきたかな?
午前中、旧山田邸でお茶。こうして終日ぼんやり、何をするのでもなく、頭の中は枯野ではなく砂漠を妄想が駆け巡る。雑念が去来するようにアイデアが、次から次へと顔を出すが、すぐ、どこかに去っていく。
ぼくはビジョン(絵)で物を感じるけれど言葉をナリワイにしている人は、次々押し寄せる言葉の洪水をどう処理しているのだろう。言葉は考えを要求してくるけれど、ぼくの場合は考えではなく想いが押し寄せてくる。これが言葉じゃシンドイだろうなあとつくづく画家であることを悦ぶ。
夕食は自家製牛丼。
瀬戸内さんから電話。「どなたですか?」「ジャクチョーです」「あゝ、そうですね」。瀬戸内さんの難聴よりぼくの方が重症。彼女は声が元気なので、この分ならこっちより長生きしそう。
夕食後、ちょっと気分悪くなる。水野クリニックを視野に入れるが、間もなく回復する。
〈タカラジェンヌガ郷里ニ来ルトイウノデ、写真ヲ撮ル準備ヲスルガ、何ノ為トイウコンセプトガナイ〉という夢。
起床時の疲労はマンネリか、一時的なものか、自分ではわからない。
一ヶ月振りで増田屋へ、まだ歩行はつらいので自転車で。山田洋次さんとも一ヶ月以上か、お嬢さんと。旧山田邸でお茶のあとアトリエへ。午後、体力試しに野川緑地広場へ。弱り目にたたり目に蚊の襲来。片端から撃墜する。
当り前のことが当り前にできないまどろこしさに驚いている。人間の枠からはみ出しかねない恐怖もある。(よこお・ただのり=美術家)
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更新日:2019年10月4日
/ 新聞掲載日:2019年10月4日(第3309号)
アトリエへの大旅行、頭の中は砂漠を妄想が駆け巡る
※写真右に記事を回り込ませる
『バック・トゥ・ザ・フューチャー Part3』
(1990年公開)、ロバート・ゼメキス監督作品
(1990年公開)、ロバート・ゼメキス監督作品
2019.9.23
自宅静養を続けている。昨日初めて近くの山田邸で一服するが、今日も試しに外出。公園のベンチで休息しながら牛歩でアトリエへ。普段の2、3倍の時間を要する。まだ足並み揃わず。動悸、息切れ激しい。味覚障害? 食欲もあまりない。
夜、寝つき悪く、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー Part3』をベッドの中で観るが、これとて体力が必要。19世紀のアメリカの西部から未来(現代)に突入する瞬間は、H・G・ウェルズとジュール・ヴェルヌの合体アドベンチャーってとこ。ハチャメチャがいい。字幕入りなので難聴でも解る。
2019.9.24
徳永と東京医療センターへ。相変らず咽が乾く。抗生物質やステロイドの副作用のようだ。薬を中止するかどうかを決定するのは採血の結果で決める。中止することになった。今日からは栄養で体力を回復させる方向に変える。食欲はないが、濃い味の食物が必要とか。院内レストランで、昼食をするが、元々まずいのか味覚のせいなのか、食欲進まず。院内でダラダラ時間を過ごす。この間ベッドの中からひょいと現われたティンカー・ベルのあの不思議な存在が頭から離れない。本紙担当編集者の角南さんが調べてくれたことだけれど、ティンカー・ベルはベッドとパジャマがお気に入りとか。正にピッタリのシチュエーションだ。少女ならともかく83歳の老人の目の前で起った出来ごとは、客観的には説明できない。個人的体験ということになると、あれは幻視(イリュージョン)だったということになるのだろう。だけど、そんないい加減なビジョンではない。ぼくにとっては、あくまでも現実というか真実だった。
2019.9.25
午前中ベッドの中、無為。体力を試そうと牛歩で桂花のふかひれそばを食べに。外食もひと仕事である。
一時間以上かけて、桂花→事務所→喜多見不動堂→野川べり→ビジターセンター→神明の森→アトリエへと大旅行をした気分だ。
夕食は自家製ステーキ。好物なのでスラスラ食欲が出てきたかな?
2019.9.26
昨夜過食のせいか、というより甘い物のせいだろう。胸焼が残っている。このところずーっと野良のクロの顔を見ない。入院中に姿を消したのかな。一匹だけいたメダカも、姿を見ていない。午前中、旧山田邸でお茶。こうして終日ぼんやり、何をするのでもなく、頭の中は枯野ではなく砂漠を妄想が駆け巡る。雑念が去来するようにアイデアが、次から次へと顔を出すが、すぐ、どこかに去っていく。
ぼくはビジョン(絵)で物を感じるけれど言葉をナリワイにしている人は、次々押し寄せる言葉の洪水をどう処理しているのだろう。言葉は考えを要求してくるけれど、ぼくの場合は考えではなく想いが押し寄せてくる。これが言葉じゃシンドイだろうなあとつくづく画家であることを悦ぶ。
2019.9.27
ステーキは胸焼はしなかったが、昨夜のとんかつは、やっぱり油のせいか胸焼激しい。自転車で桂花まで行ってみる。歩行も危ないけれど自転車も同じか。久し振りに冷し担々麺を食べるが、夜胸焼あり。甘い物は中止しているけれど、玉露茶(旧山田邸)の飲み過ぎ。甘い物(果物も含む)、とんかつ(油)、中華(油)、玉露茶(カフェイン?)が胸焼を誘発。何を飲食すればいいのだろう。夕食は自家製牛丼。
2019.9.28
朝方冷えてきたので暖房に切り換えたが、失敗したのか、起床(8時半)と同時に熱中症気味。OS1をガブ飲みして、落ち着かせる。瀬戸内さんから電話。「どなたですか?」「ジャクチョーです」「あゝ、そうですね」。瀬戸内さんの難聴よりぼくの方が重症。彼女は声が元気なので、この分ならこっちより長生きしそう。
夕食後、ちょっと気分悪くなる。水野クリニックを視野に入れるが、間もなく回復する。
2019.9.29
最近は水枕のせいかよく眠れる。〈タカラジェンヌガ郷里ニ来ルトイウノデ、写真ヲ撮ル準備ヲスルガ、何ノ為トイウコンセプトガナイ〉という夢。
起床時の疲労はマンネリか、一時的なものか、自分ではわからない。
一ヶ月振りで増田屋へ、まだ歩行はつらいので自転車で。山田洋次さんとも一ヶ月以上か、お嬢さんと。旧山田邸でお茶のあとアトリエへ。午後、体力試しに野川緑地広場へ。弱り目にたたり目に蚊の襲来。片端から撃墜する。
当り前のことが当り前にできないまどろこしさに驚いている。人間の枠からはみ出しかねない恐怖もある。(よこお・ただのり=美術家)

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