夢と爆弾 サバルタンの表現と闘争 書評|友常 勉( 航思社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年10月5日 / 新聞掲載日:2019年10月4日(第3309号)

夢と爆弾 サバルタンの表現と闘争 書評
現実の袋小路から新しい議論へ
拡散して行く「問題提起」

夢と爆弾 サバルタンの表現と闘争
著 者:友常 勉
出版社: 航思社
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 この著書が冒頭に取り上げるのは、船本洲治という人物だ。船本は一九七〇年代に釜ヶ崎や山谷で活動し暴力手配師追放釜ヶ崎共闘会議を結成、激烈に資本主義制度そのものと対決した。船本を取り上げる著作を読むこととは緊張を強いられる。というのも、船本は私が釜ヶ崎に関わってきたこの十数年の間に幾度となく聞いた畏名であり、生前の船本と深く関わった活動家たちの厳しい眼差しによって、現在の釜ヶ崎での私の活動の軸があるからだ。著者も十分に参考にしている「黙って野垂れ死ぬな 船本洲治遺稿集」は船本が皇太子来沖にたいして焼身決起した死をうけて、残された仲間たちによって船本の死を運動に転化しようとして刊行された。まるで、それこそが船本の唯一の追悼の仕方であり、無駄死にをさせないための方法かのように。遺稿集は船本が書いたビラや論文によって構成されている。これらは手書きの原稿がそのままの形で残されているものがあり、書き殴った文章がぐちゃぐちゃとかき消されていたり、記述が印刷文字で読む以上に船本の当時の呼吸と情念を受け取ることができる。はたして友常勉の『夢と爆弾』は遺稿集と拮抗できる書物だろうか?生前に船本と関わった老活動家はどう読むのだろうか?というのが私の緊張の正体である。読み進めるとなるほど友常はそのことに関して圧倒的に自覚的だということに気づかされる。解説・桐山襲『パルチザン伝説』の批評でそれははっきりと言葉にされる。桐山襲の小説の方法論について友常は「桐山にとって痛切に求められていた現実世界との対峙は、生者の権利を不断に剥奪することでしか果たせれないような、死者の存在論を書くことにあった。それは革命運動の生者と死者をめぐる、もうひとつの革命運動である。」と言う。友常の根底にあるものもまさしくこれだろう。現在の運動における到達点や行き詰まりを敏感に感じ取っているだろう友常は死者や過去の事象を再検証することにより現実の行き詰った袋小路から新しい議論への投起を促している。例えば、山谷の暴動についての、森ひろしの詩や梶大介や竹中労の暴動についての文章は、大衆運動がマスコミや警察機関の過激派キャンペーンとのメディア戦に敗北し、戦闘的な運動は全く支持を得られていないようなまやかしを見せられている日本の運動の特異性を三段飛ばしで無視して「暴動」とは一体何なのかという問いを投げかける。また〈矢田教育差別事件〉再考は、現在の政治的言語の公正性についての批判する側と批判される側が陥りがちな硬直した紋切り型の運動的態度をはるかに超えて、差別―被差別の深刻な断絶を浮き彫りにし、糾弾闘争を「お怖い、時代錯誤な運動」と切り捨てず、冷徹で実証的な方法で糾弾闘争についての考察をしている。差別問題に向き合う友常の姿勢そのものが一歩、二歩、差別についての議論を先に推し進めている。友常の革命論は死んだはずのモノを生き返らすことにあるようだ。

最後に、この著書で取り上げられるテーマは「流動的下層労働者」「東アジア反日武装前線」「サバルタンと部落史」「アイヌ民族」「表現と革命」の五章からなっており、あらかじめ了解された固定を感じさせはする。作品の題材は船本洲治のイショの分析、大道寺将司の俳句の批評、矢田教育差別事件の再考、日航123便墜落事件と調査委員会の検証、「マルクスの商品語」の書評や、大西巨人「神聖喜劇」高橋和巳「捨子物語」桐山襲「パルチザン伝説」の小説批評、他にも大島渚・吉本隆明・夢野久作・正岡子規・石牟礼道子……について論じる。一つの書物としてまとめ上げられることが目的というよりは、文章の中で展開される「問題提起」は拡散して行く。おまけにひとつひとつの文は「はじまりに」からはじまり、最後に「終わりに」と結論部分が丁寧におかれている。だが、結論はあくまで暫定的な結論で文章の中で拡散された「問題提起」が結論によってまとめ上げられることを読者は期待しない方がいい。どうやらそれがこの著書の我々に向けられた爆弾のようだ。
この記事の中でご紹介した本
夢と爆弾 サバルタンの表現と闘争/ 航思社
夢と爆弾 サバルタンの表現と闘争
著 者:友常 勉
出版社: 航思社
以下のオンライン書店でご購入できます
「夢と爆弾 サバルタンの表現と闘争」出版社のホームページはこちら
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