山中恒と読む修身教科書 戦時下の国体思想と現在 書評|山中 恒(子どもの未来社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年10月5日 / 新聞掲載日:2019年10月4日(第3309号)

山中恒と読む修身教科書 戦時下の国体思想と現在 書評
現代社会への警鐘であり記憶の継承
「天皇絶対の国体原理主義の呪術的な核」を検証する

山中恒と読む修身教科書 戦時下の国体思想と現在
著 者:山中 恒
出版社:子どもの未来社
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 太平洋戦争末期にあたる一九四四(昭和一九)年五月、中等学校用の修身教科書としては最初で最後となる文部省国定教科書『中等修身一』が刊行された。翌年には敗戦を迎えるため、この教科書を使用したのは一九三一年四月から一九三二年三月までに生まれた一学年のみとなるが、山中恒はまさにその当事者に該当するという。

一九四四年には勤労奉仕の強化徹底により授業は一学期しか実施されず、ゆえに教科書の内包する理念が生徒たちに体得されることはなかったとしても、「しかしこれは当時の中学一年生に文部省(国)が何を教えようとしたのかを示す物証」であると山中は述べる。

本書は、これを再読することで「改めて天皇絶対の国体原理主義の呪術的な核」を検証しようとするものである。すなわち『中等修身一』のうちの前付部分にあたる「詔勅」の影印、および、「目録」(=目次)以下教科書本文を現代仮名遣い・常用漢字表記でリライトして可読性を高めたテキストとを収め、山中による解説を付す。

それらに先立つ「はじめに――なぜ今『中等修身一』か」は、山中の生年月日、生地、父親の氏名と生業とから起筆され、満州事変勃発の二ヶ月前に生誕した彼のライフストーリーの端緒が、日本軍による侵略戦争の本格化の歴史とまさに同時代にあったことが示される。看板業を営む父は軍に協力して単身で北京に渡り、ために余儀なくされた転校の先で山中が遭遇した「イジメ」、それを契機とした朝鮮人の級友との連帯は、戦争が庶民の人生に及ぼす影響の大きさと山中の反骨精神の由来を示唆するとともに、一時「居候」した女子クラスでのエピソードなどとも併せて、山中による数多の児童読み物の源泉の所在を窺わせる。

さてその『中等修身一』の「詔勅」部分は、「天壌無窮ノ神勅」「軍人勅諭」「教育ニ関スル勅語」「青少年学徒ニ賜ハリタル勅語」「米国及英国ニ対スル宣戦ノ詔書」から成り、いわゆる天孫降臨神話、および軍人精神の涵養と宣戦の大義を、天皇の直話の体裁で示す。続く教科書本文は、「皇国の使命」以下十二章にわたって、聖戦中の勉学の態度、青少年の任務、科学技術向上の遂行、父母への孝養と至誠、勤労の精神、節約の要請等々が、国学者や勤王の志士による和歌、あるいは軍人美談を交えつつ説かれる。

これらの勅語と各章ごとに山中の解説が施され、体験に基づく当時の実感および歴史的事実との二方面からの対照によって、国体原理主義と皇国史観の不合理と矛盾、現場教師や軍人たち大人の欺瞞と無責任が鋭く剔抉されている。

小説的で豊かなディティール、視聴覚イメージの再現性の高さ、心情をかたどる鮮やかで確かな叙述。綴られた記憶は、『中等修身一』の再読にともなって次々に甦ったものであるという。本書は、今年米寿を迎えた山中が、歴史修正主義と愛国言説が横行する現代社会に向けた警鐘である。その記憶の継承を呼びかけられたわたくしたちの応答責任が、いまこそ問われている。
この記事の中でご紹介した本
山中恒と読む修身教科書 戦時下の国体思想と現在/子どもの未来社
山中恒と読む修身教科書 戦時下の国体思想と現在
著 者:山中 恒
出版社:子どもの未来社
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「山中恒と読む修身教科書 戦時下の国体思想と現在」出版社のホームページはこちら
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