医学教育の歴史 古今と東西 書評|坂井 建雄(法政大学出版局 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年10月5日 / 新聞掲載日:2019年10月4日(第3309号)

医学教育の歴史 古今と東西 書評
欧米と日本の医学教育の歴史を論じる
十二章の論文からさまざまな視点を学ぶ

医学教育の歴史 古今と東西
著 者:坂井 建雄
出版社:法政大学出版局
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 坂井建雄『医学教育の歴史―古今と東西』(2019) は、欧米と日本の医学教育の歴史を論じた論文集である。時間枠としては、古代、中世、初期近代・近世から近現代に至るまでの時期を取り上げ、論文は全体で12章が集められている。構成としては3部に別れている。第1部は「西洋の医学教育」、第2部は「日本近世の医学教育」、そして第3部は「日本近現代の医学教育」と題されている。

第一部の1章は坂井建雄による古代・中世からおよそ1800年までの医学の歴史の概観である。2章は同じく坂井によるもので、中世から近現代のハイデルベルク大学を素材として、600年間の長い視点で教育体制の変化を論じたものである。教授数の変化の表が、人口でいうと5000人が15万人になっていることも考えると興味深い。3章は永島剛による近代ロンドンを中心とした論考で、19世紀のロンドンにおける臨床と科学の共存にともなう医師資格の登場を描いたものである。

第2部は江戸時代の日本を論じた3点の論考が集められている。この部分は、日本という一つの国家を地域別に研究するものであることを利用して、それぞれが1つの地域に集中した記述をし、全体としてまとめると立体的に形成される優れた部分である。4章の町泉寿郎は、江戸の構図を明らかにしたあと、讃岐・備中・備前などの瀬戸内海を超えた地域が、京都での学習を中心に医学教育が行われた事例を明らかにした。5章の海原亮は、4章が京都を中心にした事例であるのに対して、米沢藩を取り上げて、江戸への遊学の事例を中心にした議論をいている。6章の青木歳幸は、枠組みを国際的に設定して、長崎を軸とした国際医療のシステムを佐賀藩を軸にして検討する。

第3部は、明治以降の日本の近現代を扱った論文がおさめられている。第2部が持っていた地域性はないが、全国水準で論じるか、傑出した個人や特徴を枠組みにしており、近現代の日本の医学の多様性と複眼性を感じさせる。7章は坂井建雄の執筆で、明治以降の医師養成制度を全体として観ており、医師数や医学校数などの一覧表が便利である。8章は相川忠臣とハルメン・ボイケルスによるもので、ポンペという幕末の日本医学に大きな影響を与えた人物と、その背景にあるオランダ医学の発達を並べてみた、日本と欧州の相互作用を検討する枠組みである。当時の日本が所蔵したオランダ医学書の詳細な一覧表が価値がある。9章は澤井直による日本の医師制度の法令的な検討であり、内務省や文部省の法令や年報をもとにした報告である。医師割合の変遷の一覧表などの基礎的なデータが提示されている。10章は逢見憲一による日本がモデルにした二つのタイプの医学の分析である。「ドイツ医学」「アメリカ医学」だけでなく「日本医学」が発展させた特殊性を論じたものである。11章は渡部幹夫による結核を軸とした医学教育の歴史であり、結核という非常に複雑な疾病を診断することをどのように見いだせるかという件に関する記述である。12章は勝井惠子によるものである。日本における生命倫理学の先行者と考えることができる発展を、戦前と戦後の橋田邦彦や澤瀉久敬の生理学者と哲学者に沿って興味深い検討をしている。

本書のメリットは数多い。医学教育の歴史に関するさまざまな視点を学ぶことができる一冊であるということが第一のメリットであろう。特に、第2部の三論文が日本のそれぞれの地域の医療教育の機能を論じ、それぞれが、京都・江戸・オランダという別の地域と別の論理に依っていたことを示した部分は、非常に興味深い。あるいは、第3部が持つ、法制度、実践、モデル、倫理というような一般論と、オランダ医学や結核の診断教育のような個別の理論が持つ特殊論がうまく混合されていることも大きな魅力である。その一方で、デメリットも数多い。その一つが日本の医学史の孤立主義である。坂井と永島と相川・ボイケルスの3点の仕事を除けば、いずれの議論も非常に国際的に孤立主義であり、日本の議論だけから構成されている。史料も方法論も日本のものだけであり、国際的な連接が考えられていない。教育の社会的な性格、特定の疾病への対応、生命倫理性などの数多くの論点が、欧米は言うまでもなく、それ以外での地域でも、国際的な形で発展していることを意識するべきである。それらと日本の現象を結びつけて英語などで論ずることが、日本の医学史を国際的なものにする議論となるだろう。
この記事の中でご紹介した本
医学教育の歴史 古今と東西/法政大学出版局
医学教育の歴史 古今と東西
著 者:坂井 建雄
出版社:法政大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
「医学教育の歴史 古今と東西」出版社のホームページはこちら
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