権力と音楽 アメリカ占領軍政府とドイツ音楽の「復興」 書評|芝崎 祐典(吉田書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年10月12日 / 新聞掲載日:2019年10月11日(第3310号)

権力と音楽 アメリカ占領軍政府とドイツ音楽の「復興」 書評
芸術政治史/政治文化史
空白の時代を、正面から論じ切った労作

権力と音楽 アメリカ占領軍政府とドイツ音楽の「復興」
著 者:芝崎 祐典
出版社:吉田書店
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 二〇世紀半ばのドイツ音楽を、ナチスの影響と関係づけて語った著作は少なくない。だが、ナチス政権崩壊後、しかも連合軍に占領されていた時代に焦点を当てたドイツ音楽史となると……。

本書は、数あるドイツ音楽史関係の出版物の中でも、これまでほとんど顧みられてこなかったいわば空白の時代を、正面から論じ切った労作である。しかも『権力と音楽』というタイトルから分かるように、単に音楽の世界だけにとどまらない。政治史や国際関係史の研究を積み重ねてきた経歴を持つ著者だからこそ、視野の広さを特徴に、芸術政治史、政治文化史とも呼べる創造的分野がここに切り拓かれた。

本書は第二次世界大戦末期、連合軍の爆撃を受けて瓦礫の山と化したベルリンの話から始まる。そして、そこへ進駐してきたアメリカ軍、さらにいえばアメリカ占領軍政府がドイツ音楽に対して何をおこない、戦後のドイツ音楽をいかに復興させていったのか、というテーマが、様々な視点から語られてゆく。

とはいえ、戦後ドイツの音楽界の歩みが平坦なはずもなかった。ドイツ音楽からナチスの影を一掃することが図られた……という程度の情報であれば、ナチス協力者か否かということで裁判にかけられた指揮者のフルトヴェングラー関係の評伝でお馴染みだろう。だが結局のところ、ナチスの党歌のようによほど政治性がはっきりしているものでもないかぎり、明確な白黒付けなど不可能だ。何しろ占領軍政府が扱う対象は、「ナチスの大衆動員の道具」という過去を負っているとはいえ、ナチス以前から脈々と続くドイツ音楽そのものだったのだから。

となると、「根本問題はありながらも、占領政策はともかく開始させなければならない」という見切り発車の状況が生まれる。そして、米ソ間の政治対立の高まり、ドイツ人のアメリカ音楽に対する複雑な反応等を通じ、「ナチスのイデオロギーに『汚染された』ドイツの音楽環境を浄化し(中略)『民主主義国家アメリカのクラシック音楽』をドイツへ導入するという発想」に基づく文化政策は、当初の予想とは異なる展開を余儀なくされてゆく。

このような状況が、戦後「西ドイツ」の音楽にどのような影響を与えたか。それについては是非本書を手に取っていただくとして、本書にはさらに幾つかのサブテーマが存在する。その一つこそが、アメリカ占領軍政府の下でドイツでの演奏活動をおこなった異色のアメリカ人音楽家たち。早過ぎる引退を余儀なくされた女性ヴァイオリニストのトラヴァース、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の非ナチ化を進める中で指揮台に立った「黒人」のダンバー、あるいは音楽担当官のビター……。イデオロギーの違いこそあれ、ナチスの時代と変わらぬ音楽と政治の結び付きが生んだ陰の音楽史に他ならない。

「文化や芸術に関わる政治権力の問題は、自由主義ないし民主主義を標榜する国家においていつでも起こり得る問題でもある。」現在のような時代だからこそ、ずしりと響く著者の結語だ。
この記事の中でご紹介した本
権力と音楽 アメリカ占領軍政府とドイツ音楽の「復興」/吉田書店
権力と音楽 アメリカ占領軍政府とドイツ音楽の「復興」
著 者:芝崎 祐典
出版社:吉田書店
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「権力と音楽 アメリカ占領軍政府とドイツ音楽の「復興」」出版社のホームページはこちら
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