鳥羽・志摩の海女 素潜り漁の歴史と現在 書評|塚本 明(吉川弘文館 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年10月12日 / 新聞掲載日:2019年10月11日(第3310号)

鳥羽・志摩の海女 素潜り漁の歴史と現在 書評
海女の生業
海女の生業

鳥羽・志摩の海女 素潜り漁の歴史と現在
著 者:塚本 明
出版社:吉川弘文館
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 海女とは、己の身ひとつ、シンプルな道具のみを用いて海に潜り、食べ物を採ってくるという、原始からほぼ変わらぬ形で素潜り漁を生業とする女性たちのことである。海女は、近年、海洋資源を保全しながら持続可能な漁を続けてきたことで、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から注目されることが増えてきた。また、悪い意味でも、漁村地域の観光資源として関心を集めている。

しかし今、その高齢化と後継者不足によって、海女は危機に瀕している。海女になろうとする者が稀にしかいないのである。それも相まって、今春には、鳥羽・志摩地方の海女が文化庁によって「日本遺産」に認定された。同地域は、「海女が日本一多いまち」を標榜し、その海女は既に、国の重要無形民俗文化財にも指定されている。本書は、この鳥羽・志摩地方の海女の歴史を紐解き、その魅力を多角的に伝える手引書となっている。

ところで、なぜ、私たちは海女に魅了されるのか。

それは、私たちの社会が過剰なまでに便利になり、そして、スコブるつまらなくなったからではないだろうか。便利であること、即ち効率の良さとは、単に特定の成果に基づく時間と労力が軽減され、そのプロセスが除去された状態にしか過ぎない。そのプロセスにこそ、私たちの〈知恵〉、そして、それを表出する〈身体〉が必要とされているのではないか。にも関わらず、それをみすみす手放すことによって、私たちは苦しくなっているように思えるのである。私たちの少なからずが、あえて皇居の周りをグルグル回るのも、険しい山に登ろうとするのも、「健康」という名の病魔に取り付かれているからではなく、無意識に己の〈知恵〉と〈身体〉を回復させようと試みているからではないだろうか。

海女の〈知恵〉、そして〈身体〉とは、絶えず変化し続ける海の危険に晒されながら、己の身と生活を守って獲得したものである。仮に、海女がスキューバを用いれば、確かに漁の効率はあがるだろう。だが、その代償として、海女は自らの〈知恵〉を捨てることになる。それはすなわち、自然と共に生きるための〈身体〉を失うことでもある。海女は、あえて効率性を排除した素潜り漁を行うことで、それを防いでいるのである。本書には、このような海女の生業から見える、著者曰く「働くことの意味や実感を取り戻すためのヒント」が処々に散りばめられている。

ただし、本書では、あくまで海女の魅力を伝えることに主眼が置かれているため、そのようなヒントが体系化されてはいない。むしろ、時代の波に翻弄されつつも、己の〈知恵〉と〈身体〉を守り続ける海女の姿を歴史的に追うことで、本書の最終章で語られる「現代の海女」の魅力を引き立て、海女に対する興味のみならず、その文化や居住地である漁村、それを取り巻く地域社会への関心を高めることが狙われているのである。それは取りも直さず、私たち自身の働く意味や実感への問いかけにもなっている。
この記事の中でご紹介した本
鳥羽・志摩の海女 素潜り漁の歴史と現在/吉川弘文館
鳥羽・志摩の海女 素潜り漁の歴史と現在
著 者:塚本 明
出版社:吉川弘文館
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