黒い豚の毛、白い豚の毛 自選短篇集 書評|閻 連科(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年10月12日 / 新聞掲載日:2019年10月11日(第3310号)

黒い豚の毛、白い豚の毛 自選短篇集 書評
繊細な描写、現実と幻想のあわい
小説家としての閻連科の魅力を十全に示す

黒い豚の毛、白い豚の毛 自選短篇集
著 者:閻 連科
翻訳者:谷川 毅
出版社:河出書房新社
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 閻連科は『愉楽』、『丁庄の夢』、『炸裂志』などの長篇小説によって日本でも知られている。ノーベル賞候補とも言われ、文学ファンの間で評価が高い。本書は自選による日本ではじめての短篇小説集である。

閻連科の長篇小説は、ややもすると突飛に感じられる広大な世界を構築し、現実とも幻想ともつかない不思議な語り口で描き出すところに特徴がある。ところが短篇小説では大きな世界を構築することはできない。閻連科自身、本書に寄せた文章で、「余分な一字、余分な一句は、短篇にとって顔にできた出来物のようなものだ」と、彼らしい表現で短篇小説への抱負を語っている。かくして本書の短篇小説では、人を驚かせるような世界ではなく、一字一句まで気を配った繊細な描写が表された。

本書は合計九篇を収録している。題材に基づき、農村を描いた作品、軍隊を舞台とした作品、宗教についての作品と分けられている。執筆時期に基づくならば、農村と軍隊を題材とした作品が早い時期のもので、宗教についての二作は近年の作品である。閻連科は農村出身で、軍隊生活が長い。農村と軍隊の二つの題材は、長篇小説でも取りあげてきた。また宗教も、閻連科が早い時期から関心を寄せていて、多くの小説に宗教的なモチーフが描かれている。さらに「訳者あとがき」によると、最新の小説では正面から宗教を扱ったという。つまり本書の短篇小説の題材そのものは、閻連科の一貫したテーマと合致している。その世界観も閻連科らしいと言える。

閻連科の文学世界は、中国社会の闇の部分あるいは問題点を鋭く見極め、それを必ずしも「リアル」ではない筆致によって描くことで、逆説的に読者に強烈な印象を与えるものと考えられる。彼が小説で扱う題材は、しばしば政治的タブーに触れ、その結果作品が発禁処分を受けることも多いが、しかし閻連科の政治性を過度に強調するべきではないだろう。中国社会の闇や問題を批判する姿勢自体は、魯迅の文学にも当てはまることで、中国現代文学の主流とすら言える。閻連科は中国現代文学の伝統を継承しながら、それを現在の文学として有効な形にするべく模索していると言うべきである。
閻連科が模索しているのは、小説によって大きな世界を描くことだけではない。独特の表現方法も忘れてはならない。じつは彼の小説には難解な表現や奇抜なことばはほとんど現れない。むしろ言語としては日常的で常識的である。しかし日常的な言語を使って、非日常的に感じられる出来事を淡々と描き出す。その結果、現実とも幻想とも言いがたい不可思議な感覚を読者に与える。閻連科の小説を読むことは、現実と幻想のあわいにある閻連科の文学世界を漂う体験なのかもしれない。閻連科について、好む読者と好まない読者で二分されると言われるが、それは彼の表現の現実と幻想の距離感が容易には掴みづらいためとも考えられる。
本書の訳者である谷川毅氏は、閻連科の理想の読者である。閻連科の文学世界の特質を、おそらく日本で最も深く愛情を込めて理解している。谷川氏の訳文は、閻連科の文章を正確に日本語化したのみならず、現実とも幻想ともつかない境地に、どこかユーモラスな抒情を込めている。その結果本書は、谷川氏の訳文によって、長篇小説で問題提起をするだけではない小説家としての閻連科の魅力を十全に示すものとなった。
この記事の中でご紹介した本
黒い豚の毛、白い豚の毛 自選短篇集/河出書房新社
黒い豚の毛、白い豚の毛 自選短篇集
著 者:閻 連科
翻訳者:谷川 毅
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「黒い豚の毛、白い豚の毛 自選短篇集」出版社のホームページはこちら
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