マーク・トウェインはこう読め 書評|和栗 了(柏書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年12月9日 / 新聞掲載日:2016年12月9日(第3168号)

マーク・トウェインはこう読め 書評
愛好家向けの読み物であり研究に資するところも多い

マーク・トウェインはこう読め
出版社:柏書房
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アメリカ合衆国の一九世紀を代表する作家マーク・トウェインの人生にまつわる様々なことがらについて、伝記的な事実を組み合わせて物語に仕立て、ほぼ時間の流れに沿って並べたもの。その平易な語り口と、紹介される伝記的な情報の豊富さ、そして何よりもその組み合わせの妙で作り上げられるトウェイン本人と取り巻く世界の生き生きとした姿に、文学愛好家には大いに楽しめる一冊となっている。

テーマを章ごとにごく簡単に紹介すると、父親の残した土地、母親との関係、故郷の町と家、水泳、アメリカン・ドリーム、発明、決闘、舞台、先住民族、女性、妻と多岐にわたる。また実際に各章を読むと、いずれの内容もこれらひとことではまとまりきらない。全体としても各章においても、話題は脱線気味に広がりながら展開する。

たとえば最初の章は、トウェインの生前、父親が西部ミズーリ州に移住する前にいたテネシーで行った土地投機を巡ってその事実関係を検討し、父親やトウェインの思惑を推測し物語化していく。と説明するのでさえまとめ過ぎで、話はトウェインの家族観、作品に描かれた父親像、トウェイン自身の父親としての姿、長兄の人物像というぐあいに、父親が買い遺した土地を出発点に話は次々と広がっていく。いやむしろ、こまごまとした事柄や様々な出来事に支えられた、ある土地を巡る一家の物語と言った方がよさそうだ。

このように紹介すると散漫な印象を与えかねないし、事実そのような面がないわけでもないが、本書にはこうした内容の広がりとは別に一本軸が通っている。著者が繰り返し情報源として引用する『マーク・トゥエイン書簡集』と『マーク・トウェイン完全なる自伝』が、本書をほんの一角とする氷山として背後に厳然と控えている。著者はトウェイン研究者の中でも、何よりこの両者の翻訳者として知られる。

トウェインは生涯を通じて膨大な量の手紙を書いており、トウェインの文学と人生をよりよく知るための格好の材料を提供している。幸い手紙も例外ではなく、トウェインの書いたものすべての収集・整理・解読を行っているカリフォルニア大学バークリー校の研究機関マーク・トウェイン・プロジェクトから、印刷物およびオンラインでのアクセス可能な形で次々と公開されている。著者はそれらを逐次翻訳して、日本への紹介に大きく寄与している。

『完全なる自伝』でも事情は変わらない。トウェインが晩年に口述筆記させて作成した大部の自伝は、本音で語ったために差し障りのある部分が多く、トウェイン自身が百年間公開を禁止したというものである。マーク・トウェイン・プロジェクトが三巻本として刊行を開始した際には、トウェインに関して隠されてきた真実が暴かれると注目され、第一巻は七三六頁にわたる長いものにもかかわらず、合衆国では大ベストセラーとなった。いち早くこの翻訳に取り組んだのが著者である。

本書は一見思いつきのように取り上げる瑣末な事柄の数々で構成されるが、周到に選んだ事柄を、それぞれ詳細な情報で解き明かし尽くそうとする本書には、その軽い語り口からは想像できない、膨大な資料を地道に読み込んできたからこその著者のこだわり、研究者の矜持のようなものを感じとれる。

翻訳作業の副産物としてもたらされた愛好家向けの読み物として楽しめるが、研究の余滴と呼ぶにはトウェイン研究に資するところの多い一冊でもある。
この記事の中でご紹介した本
マーク・トウェインはこう読め/柏書房
マーク・トウェインはこう読め
著 者:和栗 了
出版社:柏書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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