写真の物語 イメージ・メイキングの400年史 書評|打林 俊(森話社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年10月19日 / 新聞掲載日:2019年10月18日(第3311号)

写真の物語 イメージ・メイキングの400年史 書評
手に負えない、魅惑的な写真を巡る物語

写真の物語 イメージ・メイキングの400年史
著 者:打林 俊
出版社:森話社
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 本書は、写真史の本である。写真が人類史に登場する前史からはじまり、「写真が新たな表現メディアとしてイメージ・メイキングの地層に定着する一九三〇年代半ばまで」の四〇〇年間を扱う。歴史書と聞けば、「個別の事歴や事件、時代のありようを明らかにする」、そんな通史の書を思い浮かべる人も多いかもしれない。固有名詞が次々と羅列されるような。だが、本書は違う。ものを見ることの歴史の変遷を読み解くこと、また、写真そのものの歴史、特に美術の歴史や視覚文化史における写真の役割、写真に対する人々の認識の変容を、「一つの物語として描くこと」を目指し、書かれている。大部の本とはいえ、筆は軽快だ。そして、何ら知識を前提とせずに読み通せる。それで、初学者でも誰にでもアクセスしやすい本になった。既に写真に詳しい者にも、著者固有の角度で語られているから、既知の事柄に新たな貌が垣間見えたりして、読ませる。

それにしても、写真を物語ることは、写真の歴史を紡ぐことである。本書は、改めてそのことを思い起こさせてくれる。近代の科学主義の観念が行き過ぎると、歴史を客観的事実の集積、乾いた記録の集合とばかり受け取る向きもあるかもしれないが、歴史には必ずそれを物語る人間がいる。現在を生きる語り手、書き手である著者が、いかに、何を潜在する過去の堆積から引き出して書くのか。それは極めて文化的な人間の営為にほかならない。

本書は、こうした歴史の把捉に自覚的に立ち返って、写真に纏わる開発や表現、それを取り巻く種々の物語を魅力的に紡ぎつつ伝える。物語ることで生成する歴史という、歴史の方法論でもありその〈ありよう〉の自覚が、本書を生んだ。

ところで、「本書では、なるべく偏りのないグローバルな視座をもった写真の歴史を語ることを目指していきたい」と、記されている。筆者の思考の筋道には、ある種当然のことながら、さまざまな国に属する語りの主体の複数の歴史、語りによって書き換えられるべき歴史という問題意識が控えているのだと了解される。が、グローバルな視座で書くとは、多数の国の人間の視点、立場に立つ写真の歴史の物語を総合して書いて語るということか。そうだとして、その営為はなかなかに本質的な困難に突き当たることは否めないのだ。物語る著者もまた、身はひとつ。身はどこかの場所と時間に在ってものを感じつつ生きるほかなく、乾いた言葉でなければ、身から出る言葉で書く荷を負う。著者は、「写真史の研究は近年すさまじいスピードで進展しており、この本がこの先何十年も読み続けられることなどはあり得ない」と書き、グローバルな写真史を志向しつつその困難を知る者でもある。

実を言えば、私にとって本書の最大の魅力は、技術と表現を巡る系を通じて顕われてきた。本書は技術的に初期写真、乾板、フィルム時代と三つに時期区分し、簡明かつ丁寧に歴史に出現した一つ一つの技術について語り、表現を語る。写真の歴史書で、本書のように手厚く技術に紙幅を割いて語ることは、意外にも稀だ。写真の技術と表現は、切り離し難いひとつのもの。だから、そんな記述で本書が光る。

その上、技術と表現を巡る系は、魅力的な引用や参照項を示して描き出され、美術や視覚文化史、イメージ・メイキングという本書が主題に据える問題を超え出ながら、写真なるものの本質と魅惑を読者に伝えてくる。思えば、美術を巡る定義、絵画と写真の線引きをおこなう言語記号、制度への固着など、つまりは文化という人為の圏域に写真の本質は収まらないからこそ、写真固有の物語が生まれる。手に負えない、魅惑的な写真を巡って。 写真とは原理上、この世界を満たす光を押し留める術である。写真は、人為の「メイキング」以前の、世界が光を通じて自らの姿を顕わしてくる、そんな位相を根底に持つ。これは写真の本質だから、時代が変わろうとも変わらない。本書が紡ぐ歴史の変遷の物語の底に、変わらないものが仄見える。一冊の書物には、企図はされぬが潜在するものもあって、それもまた興味深い。
この記事の中でご紹介した本
写真の物語 イメージ・メイキングの400年史/森話社
写真の物語 イメージ・メイキングの400年史
著 者:打林 俊
出版社:森話社
以下のオンライン書店でご購入できます
「写真の物語 イメージ・メイキングの400年史」出版社のホームページはこちら
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