菌は語る ミクロの開拓者たちの生きざまと知性 書評|星野 保(春秋社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 科学・技術
  5. 生物学
  6. 菌は語る ミクロの開拓者たちの生きざまと知性の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年10月19日 / 新聞掲載日:2019年10月18日(第3311号)

菌は語る ミクロの開拓者たちの生きざまと知性 書評
めくるめく世界の果てしなさ
極地で生活する雪腐病菌への愛と敬意あふれる一冊

菌は語る ミクロの開拓者たちの生きざまと知性
著 者:星野 保
出版社:春秋社
このエントリーをはてなブックマークに追加
 菌類のことは、そこそこ関心があるほうだと思っていたけれど、雪の下で生活している雪腐病菌についてはまるで知らなかった。そんな寒いところに菌類が?

雪腐病菌は「ゆきぐされびょうきん」と読む。字面からもわかるように病原菌の一種で、積雪下で越冬する植物を枯らしてしまうカビやキノコの総称だ。雪解けの後、地面に生えている草や芝などが所々茶色くなっているのは、寒冷地とはあまり縁がない私でも、ぼんやりとイメージできるのだが、あれは寒さで枯れたのではなく、この病原菌の仕業だったのだ。かつて日本の重要な食料であった麦などもその影響を受けてきた。

著者はこの雪腐病菌の研究者で、国内はもちろん、世界各国の寒冷地へ赴いて、極地で生活するこの菌類の生態や分布を調査し、培養の結果などから進化や適応の過程について推測する。とはいえ「打倒! 雪腐病菌」というのではなくて、その反対。研究対象である雪腐病菌への溢れる愛情のみならず敬意までもが、ぱらぱらとページをめくっただけで伝わってくる。

極限環境で生活する生き物といえば、私が長年分類を学んでいるコケの中にも、人間の感覚からすれば「なんでわざわざそんなところに」と言いたくなるような環境を好む種類も少なくない。もちろんこれは進化の過程での生存戦略というものではあるのだろうけれど、つい「やむにやまれず」とか「いたしかたなく」という言葉を連想してしまう。そういえば、ある箇所で、代表的な雪腐病菌であるイシカリガマノホタケの生態を「おっとり」と形容してあったけれど、人間でも一般的な競争に向かないタイプの人は、自分のペースでいられるならば、少々の困難はいとわず、場合によってはアクロバティックな行動にすら出てしまうことがある。本書の副題は「ミクロの開拓者たちの生きざまと知性」なのだが、これらの菌は、おっとりとやっているうちに、うっかり開拓者になってしまったのかもしれない。

他にも「ご先祖様たちは、いつ〝雪腐〟を知ったのか」という民俗学的な見地からの調査についても非常に興味深く、各章の扉で紹介されている「雪腐病菌がいるかもしれない風景」の切手コレクションとその解説もとても楽しかった。

一見突拍子もないように思える巻末の「菌」へのインタビューや人生相談の内容は本書のおさらいにもなっていて、おおよそのことをかいつまんで知ることができる。

細菌は地球生命の始まりであり、現在でも天空から深海、地中深くまで、地球表面上のありとあらゆるところに存在するのだという。

今まで知らなかったこと、気にも留めなかったことを知り、詳細懇切な解説に目を開かされると、ミクロとマクロとが背中合わせにある、めくるめく世界の果てしなさにため息が出る。そして、ひとりの研究者が費やした数十年、さらにはその背後にある膨大な時間をかけて掘りおこされたものを、こうして何でもないように読むことが出来るなんて、やっぱり本というのはいいものだとも思った。
この記事の中でご紹介した本
菌は語る ミクロの開拓者たちの生きざまと知性/春秋社
菌は語る ミクロの開拓者たちの生きざまと知性
著 者:星野 保
出版社:春秋社
以下のオンライン書店でご購入できます
「菌は語る ミクロの開拓者たちの生きざまと知性」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
田中 美穂 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
科学・技術 > 生物学関連記事
生物学の関連記事をもっと見る >