印象派と日本人「日の出」は世界を照らしたか 書評|島田 紀夫(平凡社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年10月19日 / 新聞掲載日:2019年10月18日(第3311号)

印象派と日本人「日の出」は世界を照らしたか 書評
印象派を学ぶための絶好の教科書
三部構成で印象派を「ゆるり」と旅する

印象派と日本人「日の出」は世界を照らしたか
著 者:島田 紀夫
出版社:平凡社
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 「半可通」という言葉がある。読んで字のごとく生半可な通人、すなわち知ったかぶりの意味である。美術館学芸員を職業にしていると、業界関係者、来館者を問わずこんな台詞をしばしば聞く。「日本人は印象派が好きだね。日本の美術館は印象派の展覧会ばかりやっているよ」。やや斜に構え、印象派展を開催する美術館や、それに群がる(想像上の)来館者を見下しながら語るあなたに問いたい。はたして本当にそうだろうか。そもそもあなたは印象派についてどれだけの理解力があるのか。

そう問われてはたと胸に手を当てる人(自分も含めてだが)に、本書を絶対的に推薦する。筆者は島田紀夫氏。美術館人にとってその名前は、かつての山梨県立美術館の館長、ブリヂストン美術館の館長とすぐに結びつくだろう。そして、穏やかで知的な紳士然とした佇まいは、なるほど19世紀西洋美術を研究する方はこういう方であらせられるのだなと納得するに十分な雰囲気をたたえている。偶然にも私の前職の美術館には、ある企業が保有する国内でも一流の印象派コレクションが寄託され、同コレクションの一部は本書「はじめに」で紹介された、国内美術館の印象派作品を集めた展覧会「日本が愛した印象派、モネからルノワールへ」(2015―16 ドイツ連邦共和国美術展示会)に紹介された。国内の美術館の印象派コレクションが海外でも充分通用するレベルであることと、印象派が、世界的に人気が高いことを示す画期的な展覧会だった。

本書は、印象派の発生と成立、そしてフランス本国および遠く離れた日本での受容のあり方を三部構成で追求する。Ⅰ部「バルビゾン派」は比較的短い。19世紀前半から中盤にかけて、実景に基づいた自然主義的な風景画を描き、印象派の先駆をなしたバルビゾン派芸術の内容が説明される。多くの資料とともに解説が付され、同芸術に寄せる筆者の敬意と愛情が伝わる。Ⅱ部「印象派」ではいくつかの方向性を持った個性的な画家達による、多少打算を含んだ集まりがいかに印象派になったのかを説く。Ⅱ部の重要性は極めて高い。なぜなら1874年のいわゆる「印象派展」(当時みずから印象主義と名乗る画家はいなかった)第1回展開催後からこんにちまで、批評家や研究者によって様々に語られてきた言説を細かく取り上げ、検証しており、その結果、本書は現時点で最も新しく、体系的な研究書になっているからである。とはいえ、専門家向けの文章では決してない。読みやすく、初めて印象派を学ぶ者にとって絶好の教科書になるだろう。より詳しく知りたければ、紹介されている一次資料ないしそれに近い資料を調べればいい。

Ⅲ部「印象派と日本」では印象派の概念をどのように日本人が咀嚼して飲み込んだのかを明らかにする。異文化を異なる言語種族が理解する難しさが描かれ感慨深い。さらに補論「日本における第二次世界大戦以後の展覧会」においては、筆者の美術館人ならではの詳細な展覧会データと分析が提示され、圧倒させられる。

丁寧な展開は冒頭に筆者が書いている通り「ゆるり」とした旅のようである。個人的には図版がもっとあればと思ったが、その場合定価は倍になるだろう。インターネットがこれだけ普及しているのだから画像検索を利用しない手はない。

印象派をこれから学んでみようと思う方にとってはもちろん、ある程度理解している方にも理想的なリファレンスとして座右の書となると確信する。少なくとも私は本書を身近に置いておきたい。いつ何時でも半可通に見せつけることができるように。
この記事の中でご紹介した本
印象派と日本人「日の出」は世界を照らしたか/平凡社
印象派と日本人「日の出」は世界を照らしたか
著 者:島田 紀夫
出版社:平凡社
「印象派と日本人「日の出」は世界を照らしたか」は以下からご購入できます
「印象派と日本人「日の出」は世界を照らしたか」出版社のホームページはこちら
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