連載「ナチスのヨーロッパ映画に対する影響」  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 127 ドゥーシェ(左)と久保宏樹|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年10月21日 / 新聞掲載日:2019年10月18日(第3311号)

連載「ナチスのヨーロッパ映画に対する影響」  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 127
ドゥーシェ(左)と久保宏樹

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ドゥーシェ(左)と久保宏樹
HK 
 ドゥーシェさんは、「自分はコラボ(対独協力)だった」と冗談交じりに語っていますよね。
JD 
 ええ。私だけではなく、私たちはコラボだったのです。その当時の大人たちは、ドイツ人たちを好意的に受け入れていました。ユダヤ人から距離をとっているフランス人も、それなりにいたのです。私は占領の時代、十一歳か十二歳ほどで、ボーイスカウトに入っていました。ある日ピクニックに出かけると飛行機が近づいて来て、地面に伏せなければならないことがありました。その時、私の横にはドイツ人の青年がいました。彼と二人で飛行機が飛び去るのを待たなければいけなかったのです。そのドイツ人の青年は、怯えて私の手を握っていたことを、今でも覚えています(笑)。ドイツ人とフランス人は、うまくやっていた面もあったのです。解放直後の映画が見せるような、憎しみ合う関係ばかりではなかったのです。
HK 
 僕の知っている限りだと、フランスにおける本当に記念碑的な作品はマルセル・オフュルスの『哀しみと哀れみ』です。一九七一年公開なので、かなり時間が経過していますね。それ以前の映画だと、多くがレジスタンスを英雄視する物語です。並行するようにして、六〇年代の初頭からアルジェリア戦争の脱走兵や、第二次世界大戦中の英雄ではない民間兵の映画もありましたが、扱っている内容のせいで多くの作品が国から禁止されました。
JD 
 今日からは考えられないかもしれませんが、その時代には大きな対立があったのです。後に六八年の五月革命として世の中に知られることになる対立です。そのような運動は急に発生したのではなく、二〇年近くに渡り少しずつ積み上げられていたのです。そのことを念頭においた上で解放後のフランス映画を見るのならば、面白い発見があるはずです。
HK 
 ヌーヴェルヴァーグとは、もともと映画の「ヌーヴェルヴァーグ」とは異なり、解放後の若者を表す言葉だったのですよね。イギリスのアングリーヤング・メンみたいな形で戦後に現れた、従来の世代と大きく価値観が異なり、ウイスキー片手に車を乗り回しバカンスを謳歌するような自堕落な生活を送っていると見られた世代を指し示す言葉でした。フランソワーズ・サガンの世界観にも喩えられていました。
JD 
 それについては、よく覚えています。オットー・プレミンジャーの『悲しみよこんにちは』が公開されたとき、作品の映し出す世界を毛嫌いする世代もいたのです。それに加えて、ブリジット・バルドーが主演していたいくつかの作品は、非倫理的であるとされていたのです。ベルイマンの映画も似通った問題を引き起こしていました。それまでの社会的倫理からすると、彼らの映画は良しとされるものではなかったのです。そうした観点からすると、フランスにおける本当に大きな問題は、ジャン・ルノワールでした。『ゲームの規則』が見せた世界観は、プレミンジャーもしくはベルイマンの映画よりも、圧倒的に許されるべきものではなかったのです。一九三九年、つまりナチスによる占領が始まる前年に、この作品はそれから先にフランスに起こるだろうことを物語ってしまったのです。それまでの社会が持っていた規則とは、新たな規則の前には滑稽なものでしかなかった。当時のフランスを信じていた人々にとっては、この上ない非難と受け取られたのです。
HK 
 ドイツも、映画を通じて考察すると、似たような歴史があったと言えるかもしれません。フランスが五月革命に向けて着々と歩みを進めていったように、ドイツ映画の歴史を辿るとナチズムの発芽を少しずつ見ることができます。一九二三年にエワルド・アンドレ・デュポンが『バルクの逃避』という作品を撮っています。一九世紀のユダヤ人が俳優として身をなそうとする話です。「ユダヤ人なのに俳優になっていいのか」といった台詞が出てきたり、その当時の対立が見えてくるようです。
JD 
 あり得ないことではありません。昔から、小説や絵画といった芸術を通じて、そのような対立はヨーロッパの中に根付いていたのです。ドイツだけではなくフランスにも似た歴史を見ることはできますし、他の国々も同じような歴史を持っているはずです。

   〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=福島勲)
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