第一八回小林秀雄賞・新潮ドキュメント賞 贈呈式開催|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年10月18日 / 新聞掲載日:2019年10月18日(第3311号)

第一八回小林秀雄賞・新潮ドキュメント賞 贈呈式開催

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※写真右に記事を回り込ませる
小林秀雄賞の平山周吉氏㊨と新潮ドキュメント賞の河合香織氏
十月四日、東京都内で第一八回小林秀雄賞・新潮ドキュメント賞(新潮文芸振興会主催)の贈賞式が開催された。受賞作は小林秀雄賞が平山周吉氏の『江藤淳は甦える』(新潮社)、新潮ドキュメント賞が河合香織氏の『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』(文藝春秋)。

選考委員の関川夏央氏は、江藤淳氏が亡くなる数時間前、最後に会った編集者となった平山周吉氏の運命に触れ、「彼の人生を平山さんは非常につぶさに描いた。それも文芸評論を文芸評論のように書くのではなく広い意味での文学者である江藤さんの人生をジャーナリスティックに描き、私はこれに感動した。この夏、一五〇〇枚という大著を読み、江藤さんの濃厚すぎる人生、ときには戦闘的ときには過剰防衛的なまでの江藤さんの振る舞い、あるいは人生そのものに酔う思いがした。怒涛のような夏だった」と評した。

受賞の言葉で平山周吉氏は、「あの厚い本を読んで下さった選考委員の皆さん感謝する。もう一つ感謝したいのは、今や伝説的になった現在休刊中の『新潮45』という雑誌で、一五〇〇枚のうち三分の二は『新潮45』に連載したもの。あの雑誌があったおかげでこれを書けた。今日はスポットライトを浴びているが、二〇年前にもこういうことがあった。それはやはり江藤さん絡みで、江藤さんが亡くなった翌日、NHK の夜の七時のニュースに出た。それが僕の人生で一番大きな出来事だったように思うが、二〇年後に再びスポットライトを浴びるこのような場に立ったことは不思議であり、半分以上は江藤さんの力ではないかと思っている」と述べ、持参した本を紹介することで受賞の言葉に代えたいとして、昭和四二年の『第三次小林秀雄全集』(新潮社)、『小林秀雄 江藤淳全対話』(中公文庫)、『小林秀雄ドストエフスキー全論考』(講談社)を江藤氏と自分との関わりも交えて紹介した。四冊目の『小林秀雄全作品』(新潮社)については、「江藤さんのことを書くのに結局四年くらいかかったが、次に僕は日本人にとって満州国というのは何だったのかということについて書こうと決めた。満州のことを考えていてここが入り口だったら書けるかなということがあって、それがこの本に入っている。それは小林秀雄の「満州の印象」という文章で、小林秀雄を入口にするといろんなことが分かるのではないかと、そう思っていたところに小林秀雄賞をいただき、そういう意味でも本当に嬉しかった」と胸の裡を語った。

新潮ドキュメント賞選考委員の保阪正康氏は、「選考委員内での発言及び正直な感想を三点に絞って話したい」とし、次の三点を挙げた。①候補五作品の殆どは作者が意図せずとも涙腺を刺激するような表現が頻出した。②時代が進み原理原則を論じる段階から、より具体的に歴史的な問題を含みながら推移している。その意味でノンフィクションは時代を映す鏡であることを再確認できた。③候補作の著者の年代が社会の基軸となる四〇代半ばから五〇代の終わりくらいの人たちで、提示された作品の問題点はいずれもこの社会が抱え込んでいる重要な問題であり、機軸の変化に出会っている。

受賞作については、「河合さんの作品はあまりにも多くの問題点が秘められている中で、いくつかの証言がそのままさりげなく表明されていることに強い感動を覚えた。人の命とは何か人権とは何か死とは何かというものの方向が一歩ずつ明確になってきているという意味でこの作品に私は強い共鳴を覚えた」と評した。

受賞の言葉で河合香織氏は、「選考委員の藤原先生から“よくぞこれだけズケズケと聞き出したものだと感心した”というお言葉を頂戴し、ノンフィクションを書く身としては大変光栄に思った。そもそもテーマの選び方においても多くの人が良識のもとにあえて言葉にしないところ、デビュー作の障害者の性も今回の障害を理由とした命の選別についても然りで、ズケズケと聞くことは相手を傷つけてしまうことでもあり、そして自分もまた傷を負う。それでもなお、どうしてもこのことをそしてこの人の真の気持ちを聞きたいという思いがあり、私自身がそれを知ることなく前に進めないほど切実な思いを抱えていた。今回のテーマは「命とは何か、命を選ぶことはできるのか」という問題で、科学技術は発達しこれまで以上に様々な疾患について命を選ぶことができる社会になっていっている。それはどんなに聞こえの良い言葉で装飾しようとも、どのような命は生まれるべきか、どのような命は生まれるべきではないかという、強制不妊手術時代から続いてきた根源的で野蛮な問いがそこには存在している。誰かから借りてきた言葉ではなくその人が自分自身でさえ気がついていなかった部分を一緒に探り聞かれることを待っていた問いを引き出したい。そう願って取材をしていた。これからも行儀悪くズケズケと声を上げることの出来ない人の小さな声に耳を傾け、問われることを待っていた言葉を救いとるようなノンフィクションを書いていきたい」と受賞の喜びと覚悟を述べた。
この記事の中でご紹介した本
選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子/文藝春秋
選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子
著 者:河合 香織
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
江藤淳は甦える/新潮社
江藤淳は甦える
著 者:平山 周吉
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
「江藤淳は甦える」出版社のホームページはこちら
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