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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年10月28日 / 新聞掲載日:2019年10月25日(第3312号)

連載 「ナチスのヨーロッパ映画に対する影響」   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 128

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1970年代のドゥーシェ
HK 
 ラース・フォン・トリアーは、初期のヨーロッパ三部作を撮っていた頃、自分をユダヤ系だと思っていたようです。しかしながら母親が死の間際に、彼の実の父親は別にいて、ドイツ系だと明かした。それ以降、トリアーは「自分は実は、ゲルマン系で、ナチスの側だった」と考えるようになり、作品は大きく主題を変えます。カトリックの女性との結婚もあり、続く一〇年は、信仰が問題となる作品を作るようになりました。
JD 
 そのようなアイデンティティの問題は、ヨーロッパ人にとって重要なことであったのです。フランスという国の中だけでも、決して単純なものではありません。北フランスと南フランスを例にしても、顔つきから文化まで違いがあるのです。ヨーロッパの国々は一九世紀を迎えるまで、多くの小さな国家の寄せ集めでした。それぞれの国に違った文化が生まれ、多くの人が行き交っていたのです。多くの外国人が行き交ってもいたのです。そうした文化的背景の中、ナチズムのような運動が生まれ、外国人排斥、そして弱者をキャンプに集め、ジェノサイドという恐ろしい行いへと至ったのです。このような歴史が長年にわたり、二〇世紀後半の世代にまで多くの影響を与え続けていたのです。ドイツに連なる国々は、その歴史に目を背けながら、映画を撮っていた時期もありました。それから、ファスビンダーのような映画監督のおかげで、自分たちの歴史に向かい合うことになったのです。
HK 
 ファスビンダーは、ホモセクシャルの問題など、他の主題も同時に取り扱っていますよね。彼の場合は、そのような社会全体が、自分個人に関わる問題だったのではないでしょうか。
JD 
 もちろん、その通りです。芸術家というものは、個人的観点から、社会についての作品を創り出すのです。トリアーも当然のように、個人的見解を映画の出発点としています。
HK 
 ファスビンダーやトリアーの世代のゲルマン系のアイデンティティの問題は、頭ではわかっていても、理解が難しいですね。
JD 
 ドイツにおける、ナチスとユダヤ人の問題は非常に大きな問題だったのです。多くの映画が、直接的ではないものの、そのような主題を取り扱ってきました。
HK 
 ここ最近のドイツ映画でも、世代は変わっているのですが、自分の祖父や父親が実はナチスに賛同していたといった主題を取り扱ったものが多くあります。
JD 
 まだその問題が取り上げられているのですか。面白い作品ですか。
HK 
 戦時中の話を取り上げている作品はたくさんあるので、全てに関しては責任を持って言えませんが、その多くが、クロード・ランズマンの『ショア』をフィクションに置き換えたようなものばかりです。
JD 
 何が言いたいか分かりました。
HK 
 言い換えると、何かを考えさせることはできないような作品です。今日の社会倫理的には正しいのだと思います。しかし、見る前から言いたいことがが分かります。ところで、ドゥーシェさんは、『ショア』を見たことがありますか。
JD 
 見たことはあります。
HK 
 九時間半、全てのエピソードですか。
JD 
 全てではありません。途中で見るのをやめました。あなたはどうですか。
HK 
 この前、彼が亡くなったときに、初めて全て見ました。書き物をしている横で流していたので、〝聞いた〟と言った方がいいかもしれません。見ようと思ったのですが、注視することができませんでした。
JD 
 それが大きな問題です。
HK 
 テレビ用のドキュメンタリーと大きく変わりません。
JD 
 そうです。結局のところ、『ショア』は映画ではないのです。わざわざ見るようなものではありません。
HK 
 数年前に、エマニュエル・フィンケルがマルグリット・デュラスの『苦悩』(デュラスの個人的体験に基づく占領下レジスタンスの話)を映画化したのはご存知ですか(『あなたはまだ帰ってこない』)。
JD 
 見ていませんが、知っています。良い作品でしたか。
HK 
 気に入りませんでした。それまでのフィンケルは『旅』などの作品で、それなりに良い映画を作る印象がありました。アウシュヴィッツをバスで訪れる遺族のグループを取り扱った作品です。  〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテークブルゴーニュ)
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