木皿泉著 ぱくりぱくられし|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年10月26日 / 新聞掲載日:2019年10月25日(第3312号)

木皿泉著
ぱくりぱくられし

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 異彩を放つ作家のエッセイ集。木皿泉はご存じのとおり、夫婦で共同執筆している脚本家にして小説家。

表題となる「ぱくりぱくられし」は、「野ブタ。をプロデュース」「セクシーボイスアンドロボ」「Q10」「富士ファミリー」などの名作ドラマの脚本や、小説『昨夜のカレー、明日のパン』『さざなみのよる』『カゲロボ』の創作のいろいろを、弥生犬(=夫)と縄文猫(=妻)、二人の掛け合いで、ほどいたり、あるいは話をぴょんと飛ばして混沌に戻したり。その間に私たちは癒されたり、共感したり、世界の秘密に触れたりする。読者は何も考えず、期待もせずに、ただ二人の言葉と戯れればいい。すると、訪れる指先のあたたかさと至福。「思いのほか長くなってしまったあとがき」に、「読み返してみると、脚本家としての、あるいは小説家としての木皿泉の源泉はここにあるのだなぁと改めて思う。我々の作風もまた、節操がない分、偏見もなく、何もかも詰め込んだ、ごった煮のようなものだからだ」と書かれているが、そのごった煮の中に読者も一緒に入り込んで、世の中が一層厚みを増すような、そんな気持ちになれるのだった。

「嘘のない青い空」は、縄文猫による短いエッセイを集めたもの。「あとがき」をみると「信頼していた複数の人たちに裏切られたことを知って、少々暗い気持ちの頃だった」と書かれていて驚くのだが、自分が救われたり、気づいたことを書いた、むしろそれゆえにか、読者に剥きだしのぬくもりが伝わってくる。「最低の気持ちから生まれてくるものを待とう」と書かれた後、空白の日記帳は、時が経てば、その空白の絶望が、あがいた記憶のみ残して過去になっている。「感心させようと意図して書いているわけではない。自分自身が傷ついたり、苦しいと思っていることがあって、何とかそこから抜け出せないかという切実な思いから、コトバを絞り出す」。苦しくて辛いその身から、絞り出されてきたコトバが、私たちに届いてくる。純粋に滴り落ちた、そのほの甘いコトバは、ひととき私たちの喉の渇きをいやしてくれる。

「すいか」に通じる幻のデビュー作「け・へら・へら」シナリオも収録。
この記事の中でご紹介した本
ぱくりぱくられし/紀伊國屋書店
ぱくりぱくられし
著 者:木皿 泉
出版社:紀伊國屋書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「ぱくりぱくられし」出版社のホームページはこちら
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