私のカトリック少女時代 書評|メアリー・マッカーシー(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年10月26日 / 新聞掲載日:2019年10月25日(第3312号)

メアリー・マッカーシー著『私のカトリック少女時代』

私のカトリック少女時代
著 者:メアリー・マッカーシー
翻訳者:若島 正
出版社:河出書房新社
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 マッカーシーは今の日本ではあまり人気がないようである。ゼミナールの友人に「何を読んでいるの?」と聞かれたので「メアリー・マッカーシー」と答えたら、皆「メアリー・マッカー氏」と勘違いしていた。ほかにもベストセラーであり、映画化もされた『グループ』は、小笠原豊樹による訳が一つあるだけで、すでに絶版になっている。

しかし、いい読者がいる。たとえば金井美恵子の小説『タマや』に「漂泊の魂」という一編がある。この本の講談社文庫の解説は武藤康史が書いている。彼によると金井がオマージュしたのは、マッカーシーの書いた小説『漂泊の魂』(深町真理子訳、角川文庫)であるそうだ。原題は『マクベス』五幕八場のマクベスのせりふ「おれの命はまじないつきだ」(福田恆存訳)に由来し、「一言で言えば不死身ということで、邦題名の『漂泊の魂』はこれを象徴的に解釈したものです」という深町の解説を、武藤は引用する。マッカーシーはほかにも、金井の『小説論』という講演録や『恋愛太平記』にも少しだけ登場する。

また池澤夏樹もマッカーシーの読者である。河出書房から刊行された、池澤個人編集の『世界文学全集2』に「アメリカの鳥」が収録されている。そして『私のカトリック少女時代』について池澤は、解説で次のように書く。「数年かけて一章また一章と書いたものをまとめる時に作者自身が弁明を試み、疑念を呈し、いわば混ぜっ返しながら話を進める。その意味ではこれは『反自伝』である」と。池澤は『古事記』を訳したときのインタビューで物語の原型はゴシップ、と述べつつ、日本の身辺雑記を否定している。だからこのように書いているのだろう。

読んで思ったのは、マッカーシーは正直な人だ、ということである。事実をなるべく曲げずに書こうとしている。この本は雑誌に発表されたものをただまとめたというわけではなく、場所や時間、人物などについて注釈をつけているのだが、その目は家族だけではなく、自分にも厳しい。「5 名前」の注釈ではクラスメートや私自身をあまり感じが良くない人間として描き出すことに、ここではかなりの力点が置かれている、とまで書いているほど。またマッカーシーはテレビ番組でリリアン・ヘルマンについて語り、それが原因で本人に訴えられたこともある。しかし「謝罪すれば自分の発言が嘘だったことになる」として引かなかった。

マッカーシーは面白い小説には、スキャンダルが必要、といったことを述べている。一見「正直さ」と「スキャンダル好き」は相反するもののようだが、私はそうは思わない。実際に起きたスキャンダルを、嘘を交えずにただ事実の通りに正直に書く、ということをマッカーシーはした。マッカーシーの小説を読むと、事実の力強さというものを感じる。
この記事の中でご紹介した本
私のカトリック少女時代/河出書房新社
私のカトリック少女時代
著 者:メアリー・マッカーシー
翻訳者:若島 正
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「私のカトリック少女時代」出版社のホームページはこちら
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