近代アフガニスタンの国家形成 歴史叙述と第二次アフガン戦争前後の政治動向 書評|登利谷 正人( 明石書店 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年10月26日 / 新聞掲載日:2019年10月25日(第3312号)

近代アフガニスタンの国家形成 歴史叙述と第二次アフガン戦争前後の政治動向 書評
近代アフガニスタン受胎のプロセスを描く
近代アフガニスタン受胎のプロセスを描く

近代アフガニスタンの国家形成 歴史叙述と第二次アフガン戦争前後の政治動向
著 者:登利谷 正人
出版社: 明石書店
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 一九七九年十二月二十七日、旧ソ連軍が国境をなすアムダリアを渡り、サラング峠の長い隧道をくぐり戦車とともにカーブルに侵攻して以来、アフガニスタンでは今日に至るまで戦火が収まる気配はない。二〇〇一年、まだ空爆がつづくなか、国連は新政府の樹立に向けた国際会議をドイツのボンで開催し、ハミード・カルザイを議長とする暫定政権を樹立し、二〇〇二年一月、東京ではアフガニスタン復興支援会議が開催され、アフガニスタンにようやく平和が訪れる気運を多くの人びとが感じとった。しかしアフガニスタンを襲った紛れもない国際戦争はその後も蔭を落としつづけ、その残り火はいまもくすぶり続けている。

ヨーロッパの植民地支配を受けたイスラーム世界で、ひたすら孤高の戦いを貫き、ついに独立を守り抜いたアフガニスタンは、一九一九年、アマーヌッラー・ハーンによって建国を宣言されるに至った。二〇一九年、令和元年は近代アフガニスタンの建国百周年にあたる。それを祝うかのように、明石書店が壮大な視野で展開する《世界歴史叢書》の最近作として『近代アフガニスタンの国家形成』が上梓された。アフガニスタンがこの叢書の中に加えられるのは、ヴィレム・フォーヘルサングの『アフガニスタンの歴史と文化』、嶋田晴行の『現代アフガニスタン史』についで三冊目である。

いぜん平和のみえない霧中に苦しむアフガニスタンの国家形成をあらためて捉え直し、国家存続の曙光を見出そうとする試みがないわけではなかった。しかしその多くのものは、ほとんど英文資料に基づいた考察であった。本書は異なり、「第二次アフガン戦争前後に生じた内的・外的両面におけるペルシア語現地史料」と「イギリス側英語史料における歴史叙述の変遷」の分析という「双方向から分析」によってアフガニスタンにおける近代国家の形成を明らかにする試みであるという。事実本書の特徴は、パキスタン・ペシャワール州立公文書館所蔵のペルシア語とウルドゥ語史料やハビーブッラ・ハーン(在位一九〇一~一九一九)の祐筆ファイズ・モハンマドによって編纂された歴史書『諸史の灯』などアフガニスタン側史料を多く活用して、これまで利用されてきた大英博物館インド・オフィス所蔵のアフガニスタン関係の膨大な英文史料に新たな照射をくわえ、イギリスが押し進めようとする統治政策と国境地帯であらがうパシュトゥーン諸部族との複雑な抗争、民族内部の対立の実相に、より多角的に迫ろうとしているところにある。アフガニスタンの国家の輪郭は、英領インドとアフガニスタンの国境画定の過程に見出されるようなきわめて複雑な未解決の帰属問題を抱えたまま、揺動してきたのである。著者は近代アフガニスタンにおけるこの国家の輪郭の形成過程をドゥッラーニー朝の成立過程から始め(第一章)、第二次アフガン戦争期(第二章)、アフガニスタン東部と英領インド北西部にまたがり分布するパシュトゥーン系モフマンド族とイギリス統治政策との関連(第三章)、アブドゥル・ラフマンが即位した一八八〇年代からデュアランド・ライン合意の締結された一八九三年までの期間(第四章)に焦点を当て、「部族社会体制」を保持しながら「近代的中央集権国家」として体裁を整える近代アフガニスタン受胎のプロセスを、精緻でありながら急所を捉えた簡潔な記述によって鮮やかに描き出している。

地図と資料編(年表・史料・参考文献)が行き届き、読欲を誘う。アフガニスタン史はアフガニスタンをこよなく愛するこの若き学匠の誕生を忘れることなく記し伝えることだろう。
この記事の中でご紹介した本
近代アフガニスタンの国家形成 歴史叙述と第二次アフガン戦争前後の政治動向/ 明石書店
近代アフガニスタンの国家形成 歴史叙述と第二次アフガン戦争前後の政治動向
著 者:登利谷 正人
出版社: 明石書店
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