ポルノ・ムービーの映像美学   エディソンからアンドリュー・ブレイクまで 視線と扇情の文化史 書評|長澤 均(彩流社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 文化・サブカル
  5. 文化論
  6. ポルノ・ムービーの映像美学   エディソンからアンドリュー・ブレイクまで 視線と扇情の文化史の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年12月9日 / 新聞掲載日:2016年12月9日(第3168号)

ポルノ・ムービーの映像美学   エディソンからアンドリュー・ブレイクまで 視線と扇情の文化史 書評
画期的で包括的で個性 的な「洋ピン」百年史

ポルノ・ムービーの映像美学   エディソンからアンドリュー・ブレイクまで 視線と扇情の文化史
出版社:彩流社
このエントリーをはてなブックマークに追加
日活ロマンポルノといった日本の成人映画について書かれた本は多い。アダルトビデオですらその歴史の記述やサブカルチャーとしての批評が取り組まれている。しかしポルノ・ムービー、つまりいわゆる「洋ピン」の歴史は、一般映画史から無視されていたのはもちろん、成人映画史やAV史からも弾かれ、日本では空隙になっていた。少なくない数の名作・珍作が邦訳されているにもかかわらず、である。本書はそのぽっかり空いていた穴を四三一ページの大ボリュームで埋め、我々があまりに多くの財産を見逃していたことを気付かせてくれる。

著者は欧米ポルノ百年間の通史を、監督、女優など業界人の豊かな個人史も交えながら包括的に描き出す。ふつうなら、我々はその膨大な未知の情報の洪水に押し流されてしまうだろう。だが「ポルノ映画にはまったく縁のなかった人もいるかもしれない」(九ページ)という著者の配慮と、一二〇人に及ぶ女優・男優名鑑のおかげで内容の割には読みやすい。作品批評はストーリーよりも「映像的な快楽(=スペクタクル)」中心だが、五三四点の豊富な図版が読者の想像を助ける。

今まで言及のなかった世界の通史を描くからといって、教科書的に網羅しようとして退屈な記述に終わるという罠にも本書は陥らない。『ディープ・スロート』以降の「ポルノ映画史の『歴史』部分と筆者の体験が、重なってゆく時代」(一三八ページ)の記述は、良い意味で主観が混じってくる。だからこそ、当の洋ピン史においてすら注目の少ない『グリーンドア』のような傑作を拾い上げることを可能にしている。

著者のそもそもの専門がファッション史である点も記述に個性を添えている。衣服を研究するからこそ、裸体の美を描くポルノに惹かれるのだろうか? 「私にとって衣裳考証のしっかりしていない映画は、それだけで著しく評価が下がる」(二一三ページ)とまで述べているが、ほとんどの読者ははっきり言ってポルノの衣裳に興味なんてないだろう。しかし、性の研究で有名なキンゼイ研究所が割り出したという、現存する最古のハードコア・ポルノの制作年に、服飾史的視点から行った著者の反論は誰が読んでも鮮やかだ。その他作品の衣裳考証も、著者の博覧強記っぷりそのものに読者はきっと知的満足感を得ることだろう。

さらにこの本の貢献は、空いていた穴を埋めるだけの単純な仕事にとどまらず、むしろ広がりを持つ。本書は検閲をめぐる社会学でもあり、他著『パスト・フューチュラマ』から連なる米国文化論でもある。

もちろん著者自身述べている通り、七〇~八〇年代の欧州ポルノについての記述が欠け気味であるという弱点はある。だが本書は、ポルノに関心がある者ならおそらく必携、周辺テーマに関心がある者でも手に取ってみてまず損はしない本であるに違いない。
この記事の中でご紹介した本
ポルノ・ムービーの映像美学   エディソンからアンドリュー・ブレイクまで 視線と扇情の文化史/彩流社
ポルノ・ムービーの映像美学   エディソンからアンドリュー・ブレイクまで 視線と扇情の文化史
著 者:長澤 均
出版社:彩流社
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文化・サブカル > 文化論関連記事
文化論の関連記事をもっと見る >