絶声 書評|下村 敦史(集英社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年10月26日 / 新聞掲載日:2019年10月25日(第3312号)

絶声 書評
トリッキーかつブラックなミステリ
一級品のサプライズ体験を

絶声
著 者:下村 敦史
出版社:集英社
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絶声(下村 敦史)集英社
絶声
下村 敦史
集英社
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 末期の膵臓癌を患った父親が失踪した。行方も生死もわからないまま七年が経ったため、息子たちは失踪宣告の申し立てに踏み切る。認められれば法的に父は死亡したとされ、莫大な遺産を三人の子どもたちが相続できるのだ。ところがいよいよ相続が可能になる〈死亡確定〉の直前、事態が大きく動いた。なんと父が失踪直前に作ったブログが更新されたのである──。

という、なんとも魅力的なオープニングで始まる下村敦史『絶声』は、これまでどちらかといえば骨太な作風を得意としていた著者には珍しい、トリッキーでブラックなミステリだ。

このブログは何なのか、父親が書いているのか、そうでないならいったい誰が書いているのか、何のためにこのタイミングで更新が始まったのか、書かれていることは本当なのか……。何の手がかりもない状態で、読者は三人の子どもたちと一緒に翻弄されることになる。 

三等分しても数億という巨額の遺産を巡って繰り広がられる守銭奴たちの駆け引きが読みどころのひとつ。だが、やはり何と言っても、圧巻なのは父親のブログだ。本人しか知り得ない事実や罪の告白。誰が更新しているのかという謎が霞むほど、その内容は衝撃的でドラマティックだ。ブログの中にこの不可解な事件の謎を解くヒントがあるはずだと前のめりで読み始めたが、いつしかそんなことは忘れて、ただこの話がどこへ向かうのかと息を飲んで追いかけた。

だが、読みながらわずかな違和感があったのも確かである。不可思議な事件の割に、登場人物が少ない。必然的に容疑者はかなり限定されてしまう。これで意外性を演出できるのか? さらに、途中で何らかの手がかりが提示されるでもなく、読めば読むほど事態は混迷の一途を辿るがごとき構成。いったいどこに着地させるつもりなのだろう?

と思った時点で著者の術中なのだ。ある場面で「ええっ?」と声が出た。思わず座り直した。そして最後まで読み、前のページに戻ってもう一度読み……うわあ。

これはやられた。意外性がないのではだの、どこに着地させるつもりだの、読みながら感じていたあれこれがすべて、ものの見事にひっくり返されたのである。その時点で騙されてるよ、と過去の自分に教えてやりたい。ヒントはあんなにはっきりと目の前にぶら下がっていたのに!

奥にあるものを探していたら、真横から礫が飛んできたような衝撃だ。まさかこんな手で仕掛けてくるとは思いもしなかった。

再読せずにはいられないミステリである。そして再読すると、いかに細部までこだわって書かれていたかがわかり愕然とする。一級品のサプライズを体験したい読者は、本書を読み逃してはならない。
この記事の中でご紹介した本
絶声/集英社
絶声
著 者:下村 敦史
出版社:集英社
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