ブォ・シャマニズムの現在 内モンゴル・ホルチン地方の新地平 書評|薩仁高娃(牧歌舎)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 学問・人文
  5. 民俗学・人類学
  6. ブォ・シャマニズムの現在 内モンゴル・ホルチン地方の新地平の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月2日 / 新聞掲載日:2019年11月1日(第3313号)

ブォ・シャマニズムの現在 内モンゴル・ホルチン地方の新地平 書評
現代社会をとらえる糸口を提供
内モンゴルのシャマニズムの現状を丁寧に記述

ブォ・シャマニズムの現在 内モンゴル・ホルチン地方の新地平
著 者:薩仁高娃
出版社:牧歌舎
このエントリーをはてなブックマークに追加
 著者は中国の内モンゴル東部ホルチン地方の通遼市に生まれ育ち、日本に留学して文化人類学を学んだ。二〇〇二年から故郷のシャマニズムの調査を継続し、その成果をB5版で七〇〇頁を超える大著にまとめた。千葉大学に提出して学術博士を取得した論文が基礎になっている。内モンゴルのシャマニズムの現状を丁寧に記述し、その意味を内在的に分析した画期的な労作である。

そもそも著者が日本に留学してこの研究に携わったのには、理由があった。日本の植民地支配は中国東北部に及び、その一環で内モンゴルのシャマニズムの研究も始まった。早く注目したのは鳥居龍蔵・きみ子夫妻であり、体系的に研究したのは赤松智城と秋葉隆だった。植民地支配の終焉によって研究は持続しなかったが、こうした著書が生まれた背景に日本人研究者の伝統があったことは注意される。

内モンゴルのシャマニズムは早く仏教の布教に伴う弾圧を受け、さらに宗教政策や文化大革命によって息を潜めた。しかし、改革開放政策の実施によって一九八〇年代になると息を吹き返し、二〇〇〇年以降は活況を呈するようになる。そこで、著者は儀礼の現場に立ち会って多くの写真を撮りつつ詳細に記述し、その分析を通してシャマニズム活況の背景を明らかにする。
シャマニズムの担い手はブォと呼ばれるシャマンである。ブォはなかなか治らない病気の原因を明らかにし、守護霊が素性を語れば病者は快方に向かう。ブォはそのようにして病気治療を行うが、守護霊が強ければ治療能力が試されることになり、悪霊が憑いていれば追い払わなければならない。このような儀礼によって癒やされた病者は、やがて自分が癒やす側のブォになる。そこにブォの継承が生まれる。

近年そのようにしてブォになる人が急増している。女性ブォや非世襲型ブォが増加しただけでなく、それまではなかったロス(水・蛇)や狐の精霊が憑く事例が見られる。その背景には、漢民族の信仰の影響があるばかりでなく、市場経済の浸透があることを指摘する。確かに、ブォが治療を施し、神々の祭祀儀礼を頻繁に行えば、それだけブォの収入は増えてゆく。

動物供儀を伴う祭祀儀礼を見ると、山羊や羊ではなく豚を使うようになっているが、むしろ、伝統的な解体技術が十分に継承されていないことに驚く。だがそれも当然であり、遊牧民の生活を捨てて農耕民になれば仕方がないことと言える。そうした混乱はあるにしても、著者はそれを否定的にとらえず、伝承と改革のバランスは取れていると見る。そして、こうしたシャマニズムの活況はグローバル現象になっていると述べる。本書の課題は、単なる伝統の継承ではなく、現代社会をとらえる糸口を提供すると考えられる。
この記事の中でご紹介した本
ブォ・シャマニズムの現在 内モンゴル・ホルチン地方の新地平/牧歌舎
ブォ・シャマニズムの現在 内モンゴル・ホルチン地方の新地平
著 者:薩仁高娃
出版社:牧歌舎
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
石井 正己 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
学問・人文 > 民俗学・人類学関連記事
民俗学・人類学の関連記事をもっと見る >