ヴィクトリアン・レディーのための秘密のガイド 書評|テレサ・オニール(東京創元社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月2日 / 新聞掲載日:2019年11月1日(第3313号)

ヴィクトリアン・レディーのための秘密のガイド 書評
秘密に包まれた異世界へのいざない
うつりかわる女性へのまなざし

ヴィクトリアン・レディーのための秘密のガイド
著 者:テレサ・オニール
翻訳者:松尾 恭子
出版社:東京創元社
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本書は、おもにヴィクトリア朝時代の後期(一八七〇年~一九〇一年)の世界をめぐる旅として、読者を異世界にいざなう。帯には、「あなたを映画や小説では決して描かれない本当のヴィクトリア朝の世界へご案内します」とある。衣服、排泄、入浴、月経、ダイエット、美、求愛、避妊など、語られづらい項目に注目し、図版を用いて、読者に語りかけるかたちで進んでいく。えぐりだす意図でありながら、ユーモアと軽妙さを持ち合わせている。
本書の原題にあるUnmentionableは、口にできない、口にすべきでないという形容詞の意味がある。本書は真っ先に、「~のベールを取る」という意味の他動詞unveilを想起させた。秘密を明かすというのは、その時代に「何が秘密にされていたのか」を、後の時代から振り返る行為でもある。その時代には当たり前とされていたことや女性に対する男性の助言が、今から振り返るとこっけいなものもあるのだが、それにあえて浸る痛快さがある。辛辣さを出さずに鑑賞する。

本書には、異なる時代や文化をのぞきみるわくわく感もあるが、それだけではなく共感するところもある。それはなぜか。著者は結論で、各世代の女性たちの生き方を称え、「それぞれの世代が、人々の心から女性を蔑む気持ちを少しずつとり除いてきました」と述べる。この文を含む段落はひときわ異彩を放ち、著者の、本書に込めた意図が垣間見える。
なるほど、解説で村上リコ氏が述べるように、本書は「当時の女性―清純なるヴィクトリアン・レディーたちが、どのような場面でどんな助言を与えられ、何を期待されていたか、あるいはどんな架空のイメージを押し付けられていたかということに関心が寄せられている」のだ。こんな考えがあったのかという驚きは、時代を読者に観察させる。

この本が扱うのは特定の時代の女性たちの生活であるが、著者は現在に至るまでの女性の生き方への視点を込めているのではないか。たとえ時代や文化が異なるとしても。先達の女性たちへの尊敬があり、今を生きる私たちの時代に根付く規範も実は相対的で可変的なものであり、規範に縛られる必要はない、というところまで読み取れるように思う。

本書のもう一つの楽しみ方は、図版の解読である。非文字の資料は、その時代のありさまを雄弁に物語る。まるで、図版の向こうにその時代を見ているかのようだ。各図版に出典や年が記されていないために最初は戸惑った私も、発想を変えれば、これはいつのどのような資料なのかを正確に知りたくなる、という楽しみがあることに気がついた。図版に添えられた解説も、妥当性を検証する醍醐味がありそうだ。図版の出典がないおかげで、私は自分が歩いて見てきたヨーロッパの医学模型や絵画、日本の秘宝館で見た男女の模型、日本にある医学言説、日本で女性に求められた規範なども思い出し、興味関心をそそられ続けた。本書は読者の想像力をゆさぶりながら、時代を相対化しつつ、女性の人生というテーマに迫る一冊である。
この記事の中でご紹介した本
ヴィクトリアン・レディーのための秘密のガイド/東京創元社
ヴィクトリアン・レディーのための秘密のガイド
著 者:テレサ・オニール
翻訳者:松尾 恭子
出版社:東京創元社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ヴィクトリアン・レディーのための秘密のガイド」出版社のホームページはこちら
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