朽ちていった命 被曝治療83日間の記録 書評|NHK「東海村臨界事故」取材班 (新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年11月2日 / 新聞掲載日:2019年11月1日(第3313号)

NHK「東海村臨界事故」取材班著
『朽ちていった命 被曝治療83日間の記録』

朽ちていった命 被曝治療83日間の記録
著 者:NHK「東海村臨界事故」取材班 、岩本 裕
出版社:新潮社
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 本書は一九九九年九月三〇日、東海村で発生した臨界事故で二十シーベルト(通常人が一年間に浴びる量の二十万倍)の放射線を浴びた大内氏と、その治療に当たった医師、看護婦らの八十三日に及ぶ闘いを描いている。被曝治療はそれまで世界にも例がなかった。治療マニュアルもなければ、今後どのような症状が出て身体がどうなっていくのかも分からない。ただ大内氏の浴びた放射線の量が、致死量であることは確かだった。つまりそもそも致死量の放射線を浴びた大内氏が生きていたことが、予想外であったのかもしれない。「海図のない航海」、そう表現された被曝治療。その闘いは想像を絶するものだった。

被曝直後に採取された大内氏の染色体はばらばらに砕け散っていた。染色体はすべての細胞の設計図だ。大内氏はその設計図を失ってしまったのだ。そこで医師は大内氏の妹の幹細胞を移植した。だがすぐに異常が見つかった。この原因には様々な意見があったが、放射線による影響という考え方もあった。もしそうであれば放射線は新しく入ってきた妹の細胞まで破壊したということになる。

被曝直後は話すこともでき、放射線を多く浴びたと思われる右手も赤く腫れているだけだった。だが二十六日目には、一切の皮膚が失われるという痛々しい姿に変わっていた。これが染色体を破壊されたことによる恐ろしい影響だ。日々新しい細胞に生まれ変わる皮膚を作ることができないのだ。皮膚だけでなく腸の粘膜も新しく生まれ変わる。大内氏は腸の粘膜も失われていった。

看護婦らははがれた皮膚の代わりに毎日、十人がかりで二、三時間かけて、体を守るためのガーゼを貼り換えた。また腸の粘膜が失われたことにより下痢が止まらず、大量の水分が失われていく体に水分を入れ続けた…。それは良くなるための治療ではなく、目の前の症状への対処にしかならなかった。医師も看護婦もいつまでこの治療を続けていくのか、これは大内氏のためになっているのか、そう自分自身に問いかけ続けていた。これらの治療が正解だったのかは誰にもわからない。だが大内氏が亡くなった後の解剖で、全身のあらゆる細胞が失われていた中で、心筋だけはきれいに残っていたという。理由は分からない。ただ大内氏の生きたいという気持ちの表れだったのかもしれない。

何が最善か答えのない被曝治療と、何をすべきか悩む私の人生。私の人生はこの被曝治療に比べるとちっぽけなことかもしれない。だが私は本書を読み、これらを重ね合わせ、人生を考えていた。何をすべきか、何が起こるか、今やっていることが正しいのか分からないのが人生。ある意味人生は「海図のない航海」だ、と。命があり生きていける。そのときできることをやっていくしかない。それでいい、そう思った。

本書を読み、何を考えるか。放射線の恐怖、命、人生…。初めは恐怖しかなかった。だが何度も読むうちに「人」に目がいくようになった。きっと本書を読むことで、普段考えることのできない何かを考えることができると思う。
この記事の中でご紹介した本
朽ちていった命 被曝治療83日間の記録/新潮社
朽ちていった命 被曝治療83日間の記録
著 者:NHK「東海村臨界事故」取材班 、岩本 裕
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
「朽ちていった命 被曝治療83日間の記録」出版社のホームページはこちら
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