クロースアップの傾向(エマニュエル・フィンケル)   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 129|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年11月4日 / 新聞掲載日:2019年11月1日(第3213号)

クロースアップの傾向(エマニュエル・フィンケル)   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 129

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訪日した際のドゥーシェ(左から二人目、2006年)

JD 
 エマニュエル・フィンケルの『旅』は悪くない作品でした。新作の『苦悩』も悪いものではなかったのではないでしょうか
HK 
 多くの作品と比較すれば、最後まで楽しめたと思います。ただ問題があって、いくつかのショットを除くと、役者の顔のアップばかりでした。背景が映る箇所でも、シャローフォーカスでわざわざ役者にしか目が行かないようにしており、意図的だったのだと思います。もしかしたら、予算削減のためだったのかもしれません。大きな問題として感じたのは、テレビ映画と大差がないことです。
JD 
 それに答えるためには、見てみないといけません。
HK 
 顔のクロースアップは昔からテレビドラマで多用されています。
JD 
 そうです。映像を見せるためではなく、物語を語るために映像があるだけでいいのです。
HK 
 個人的意見ですが、今日の映像では顔のクロースアップが非常に強い権力を持っているようです。電車の中で、Netflix等のテレビドラマを見ている人の姿をよく見かけます。スマートフォンの小さい画面で映像を見るためには、クロースアップしか選択肢がないのだと思います。今日ほど、ジョン・フォードやセシル・B・デミルが苦しむ時代はなかったはずです。
JD 
 フォードは、そのために映画を作っていたわけではないからです。彼らが、行ったことは映画を作ること、つまりいかにして映像で思考するかだったのです。映画作家とは、映像によって芸術を創り出す芸術家です。どうして、その映像がそこにあるのか。どうして、その音がその映像と共にあるのか。そのような思考を通じて—直感的に映画とは何かを考察しながら—一本の作品を作り上げるのです。映像産業に携わるだけの大半の人々は、昔から物語を語るだけで満足しているのです。
HK 
 いずれにせよ、フィンケルに関して問題なのは、アメリカの大半のテレビドラマと同じようにして、役者たちが魅力的に見える演出が行われなかったということです。たとえばベルイマンが同じように役者たちに会話をさせていたら、大きく違った作品になっていたと思います。しかし、フィンケルは会話だけで持たせることができなかった。デュラスの原作は面白いものなのかもしれません。いっそのことデュラスの写真だけを映して、オフの声で小説を読み上げればよかった。その方が、彼女に対するオマージュになるはずです(笑)。
JD 
 (笑)
HK 
 ドゥーシェさんはデュラスの映画が嫌いですよね。僕は好きですが。
JD 
 一体デュラスの何が好きなのですか。
HK 
 音と映像のズレから生み出される雰囲気だと思います。有名なものでは『インディア・ソング』の音声がありますが、僕が好きなのはローマの広場の映像に音声を合わせたものです(『ローマの対話』)。結局のところ、読み上げられているテクストに追いつけていないだけかもしれません(笑)。
JD 
 彼女が、変わった演出をしていたのは事実です。しかし、デュラスの映画の大きな問題は、彼女自信の態度にあります。ご存知のように、デュラスは二〇世紀のフランスを代表する小説家です。彼女自身も、そう考えていました。そして、「自分は偉大な小説家であるから、偉大な映画も作らなければいけない」という態度を持っていました。私は、その傲慢な態度が好きにはなれなかった。
HK 
 個人的にデュラスとは馬が合わなかったということではないですか。僕は、デュラス自身は知りませんが、彼女の周りにいた人たちの話を聞く感じだと、ものすごく癖の強いフランスの女性だった印象を受けます。
JD 
 そうかもしれません。
HK 
 デュラスとゴダールの対話が残っているのはご存知ですか。
JD 
 もちろん、知っています。
HK 
 ゴダールから、会話の主導権を奪うくらいに癖が強い人だったのが見えます(笑)。
JD 
 ゴダールとデュラスがテレビで行った対談は、一見するとデュラスが主導権を奪っているように見えます。しかし、映像の構図などを考慮した上で、対談を理解するのであれば、実はゴダールが完全に主導権を握っていることがわかります。 〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテークブルゴーニュ)
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