民主主義を救え! 書評|ヤシャ・モンク(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年11月9日 / 新聞掲載日:2019年11月8日(第3314号)

民主主義を救え! 書評
リベラリズムとデモラクシー
その偶然的ではない結び付き方をどう探求し、実践することができるか

民主主義を救え!
著 者:ヤシャ・モンク
翻訳者:吉田 徹
出版社:岩波書店
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 著者の見るところ、リベラル・デモクラシーはいま「非民主的なリベラリズム」と「非リベラルなデモクラシー」とに分解しつつある。前者は、欧州委員会や国際機関のテクノクラシーを典型とし、後者は、世界各地で台頭するポピュリズムやその権威主義への転化に看て取れる。

著者がこの分極化を憂慮するのは、リベラリズムとデモクラシーとの結びつきは偶然的であると見るからである。このハイブリッドな体制を戦後成り立たせてきたのは、経済成長、比較的同質な市民、そしてマスメディアによる情報の選別と媒介という経済的・文化的・技術的な条件だった。この好条件が既に失われていることは、経済の停滞、移民の流入など変化する人口構成、インターネットやソーシャル・メディアによって一変した情報環境に明らかである。リベラリズムとデモクラシーの結びつきが偶然的なものにすぎないとすれば、それがもとに戻る保証もない。

しかも近年の調査は、デモクラシーへの支持や愛着は若い世代ほど薄れており、現状を変えてくれそうな強いリーダーへの期待はすべての世代で強くなっているという傾向を示している。個人の権利というリベラルな価値と市民の意思の反映という民主的な価値を何とか擁護してきた体制は、復元力を発揮できないまま崩れ去ろうとしている。

この暗鬱な見通しをどうすれば避けることができるか? 本書によれば、ポピュリスト政党に票を投じているのは、移民の数がまだ少ない地域、いま現在というより将来への生活不安をかかえる市民たちである。また、新しい情報環境も分断だけに手を貸しているわけではない。つまり、適切に規制された移民の受容、拡がりすぎた格差を埋める再分配の強化、「人民」の民族的/宗教的レトリックに引き込まれない意見交換のネットワークの形成などによって、リベラルな価値も民主的な価値もともに死守していくことはまだ可能である。

本書が示す対応策はまだ十分に深められているとは言えないかもしないが、この点は措く。問題はむしろ、そうした政策指針を「非民主的なリベラリズム」に再び傾かない仕方でとることができるかどうかにある。ポピュリズムは、重要な政策領域が実質的に民主的なルートから取り去られてきたことへの反撥からもエネルギーを得ており、専門家主導に傾けば問題は反復される。

リベラル・デモクラシーの「危機」や「終焉」を指摘する類書はこのところ少なくない。そのなかで本書の魅力は、この体制の分極化がなぜ現れるようになったかを切れ味よく示したところにある。リベラリズムとデモクラシーのもはや偶然的ではない結びつき方をどう探求し、実践することができるのか。本書の問題提起からしっかりと受けとめたいのは、この問いである。
この記事の中でご紹介した本
民主主義を救え!/岩波書店
民主主義を救え!
著 者:ヤシャ・モンク
翻訳者:吉田 徹
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「民主主義を救え!」出版社のホームページはこちら
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