サブマリン 書評|伊坂 幸太郎(講談社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年11月9日 / 新聞掲載日:2019年11月8日(第3314号)

伊坂幸太郎著『サブマリン』

サブマリン
著 者:伊坂 幸太郎
出版社:講談社
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サブマリン(伊坂 幸太郎)講談社
サブマリン
伊坂 幸太郎
講談社
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 最近、交通事故のニュースを多く見る。高齢者の運転事故を皮切りに、世間が事故に敏感になっているのだろう。今まではあまり取り上げられなかった地方の交通事故もメディアは大々的に報道するようになった。小説『サブマリン』にもまた、交通事故を起こした少年が登場する。

家裁調査官の武藤は無免許運転の事故を起こし、人を撥ねて殺してしまった少年、棚岡佑真の担当調査官になる。武藤の上司で、「変人」の陣内と共に調査を進めていくなかで、棚岡は過去に両親と友達を自動車事故で亡くしていたことが分かる。

作中には、棚岡の起こした事故を知った女性が「人を撥ねちゃったんだから、自分も撥ねられればいいのに」「どうせ社会を舐めてるんだから、そういう若者は人を撥ねたところで、困ったな、くらいしか思っていないんじゃないの?」と言う場面がある。私には、彼女の言葉は大衆心理の現れのように思える。ニュースで知った断片的な情報から、被害者に同情し、加害者に憤りを覚えることはある種の正義と言えるかもしれない。しかし、被害者を善とし、加害者を悪とする対立構造は果たして正しいのだろうか?

ある時、武藤は過去に棚岡の友達を轢いた若林という男に出会う。若林は棚岡と同じ十九歳の時に交通事故を起こし、陣内は当時、若林の担当調査官であった。武藤は小学生を轢いた若林が、大人しい普通の青年だったことに戸惑いを覚える。陣内は「おまえはどうせ、涎を垂らしながらアクセルを踏みまくって小学生を撥ねて殺した、人喰いタンクローリーのお化けみたいなのを想像していたんだろうが」と言う(陣内の物言いは一種独特である)。加害者名が公にされない少年事件の場合、想像に尾鰭がつくことは考えられる。では、若林は残虐な化け物と言えるのか? 幼い頃に母が失踪し、酒癖の悪い父親の元で育った若林の家庭環境は決して良いものとは言えないだろう。彼は人の命を奪った加害者である。だが、加害者を絶対悪であるとするのはいささか早計と思う。私達がすべきことは犯人を吊し上げることではなく、悲劇を繰り返さないために事故を教訓として生かすことではないだろうか?

インターネットやSNSが発達し、誰もが気軽に情報を発信することができる時代になった。それは、同時に嘘や悪意も簡単に拡散されてしまうということだ。武藤は棚岡の調査とは別に、保護観察処分中の少年、小山田俊と面談を行う。小山田はネット上で過去に脅迫文を送った犯人を脅迫して捕まったのだが、彼の行いが是か非かを考えたい。悪人を懲らしめるために法を犯すことは、正当化されうることなのか? 心がけは立派かもしれないが、感情論が許されれば秩序は保たれないだろう。

私達は社会に出ていく中で理不尽な出来事に遭遇するであろう。棚岡と若林も理不尽と闘わなければならなかった。罪を背負った二人の生きる道は険しいかもしれないが、彼らはもう前に進む希望を見つけられたはずだ。
この記事の中でご紹介した本
サブマリン/講談社
サブマリン
著 者:伊坂 幸太郎
出版社:講談社
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