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American Picture Book Review
更新日:2019年11月11日 / 新聞掲載日:2019年11月8日(第3314号)

「名前のビン」

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『The Name Jar』
Yangsook Choi著/Yangsook Choi画
(Dragonfly Books)
 全米各地の空港には毎日、世界各国からの移民たちが降り立つ。新天地での生活を思い描いて高揚すると共に、祖国から離れた寂しさ、言葉も食べ物も異なるアメリカでの暮らしへの不安も抱えている。そんな親に手を引かれてやってくる子供たちもまた同様だ。移民の子供たちは、考えようによっては大人よりも厳しい環境に身を投じる。アメリカに到着した数日後には学校という100%アメリカ社会に、親の庇護なしに放り込まれてしまうからだ。

『名前のビン』の主人公、ウンヘーは小学生の女の子。両親、弟と一緒に韓国からニューヨークにやってきた。初登校日、学校に向かうスクールバスの中で名前を聞かれて「ウンヘー Unhei」と答えると、「ウーネイ?」「ウー、ウー、ウーーネイ!」と、誰も正しく発音できない。そのうち「ユー、ヘイ!」「Hey, you!」と言葉遊びが始まってしまう。ウンヘーは恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。

学校に着き、先生に自己紹介をうながされたウンヘーは名前を言わず、「えーと、名前はまだ選んでいません」「来週までにはお知らせします」と言ってしまう。

本作の著者、ヤンスク・チェ自身が韓国からの移民であり、おそらく実体験に基づく物語なのだと思える。移民の子供たちは名前で苦労することが多い。正しく発音してもらえず、挙句にからかわれる。さらには異国の名であることから「移民!」とさえ呼ばれ、どれほどアメリカに馴染んでも外国人扱いをされる。

これは大人にも当てはまる。英語話者にとって韓国の名前は特に発音が難しく、ファーストネームで呼び合う米国社会ではビジネスにもさし障る。ゆえに仕事ではエイミー、マイケルなど英語名を使う人が少なからずいる。韓国人に限らず、日本人にも例えばタカアキならTonyなど、イニシャルだけを揃えた英語名を使う人がいる。

幸いウンヘーのクラスに意地悪な子はおらず、それどころか翌日、学校に行くとウンヘーの机にガラス瓶が置かれていた。中には「デイジー」「タマラ」「エイヴァリー」など、ウンヘーが憧れる「アメリカの名前」が書かれた小さな紙片がたくさん入っていた。クラスメートは「その中から好きな名前を選ぶといいよ」と言う。

ウンヘーは紙片の名前をワクワクして読むと同時に、母親の韓国文化への誇り、近所の韓国食材屋さんとの会話、ウンヘーとは「優雅さ」を意味すること、韓国に関心を持ってくれる友だちのジョーイ、何よりウンヘーの名を彫った印鑑を持たせてくれた大好きな祖母に思いを馳せる。そして、ウンヘーが選んだ名前とは……。(どうもと・かおる=NY在住ライター)
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