連載 スノビズムと映画  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 130|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年11月11日 / 新聞掲載日:2019年11月8日(第3314号)

連載 スノビズムと映画  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 130

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北イタリアにて(2000年代)

HK 
 ラース・フォン・トリアーは、デュラスの『インディアソング』に、大きな影響を受けたそうです。トリアーは、初期作品からオフの声を多用していますが、その演出法はデュラスの映画から着想を得たといいます。
JD 
 デュラスの映画が、映画の歴史の中で重要な役割を果たしたのは事実です。ただ、彼女の演出法にはインテリ的なものを感じます。一方で、トリアーの演出はデュラスの影響だけにとどまりません。デュラスの映画は非常に単純なものです。なんでもないような場所で映像を撮影し、その上から彼女の書いたテクストを読み上げるだけでいいのです。
HK 
 テクストに重きを置いたからではないですか。
JD 
 過剰なほどに、テクストを大事にしています。
HK 
 ストローブも似たようなところがありますね。
JD 
 はい。両者ともインテリである面が見えますが、ストローブの映画の方がより面白いものだと思います。
HK 
 デュラスは映画を作り始める際に、テクストはテクストとして、映像とは別のものとして考えたという趣旨のことを語っています。
JD 
 それが私の言っていることです。デュラスは自分のテクストを、自分で読み上げることを重要視していたのです。ストローブも少し似たところがあります。しかし、彼が映画で用いたのは、自分の書いた文章ではありません。多くは偉大な文筆家によって書かれた文章です。それらの文章が、彼が考えるようにこそ読まれるべきだという思考を持って、その考えに沿った読み方を行なってきました。両者に共通するのは、映画がこのようなものであるべきだという考え方です。
HK 
 アントニオーニやジャームッシュみたいな感じでしょうか。
JD 
 それらとはまた異なった理由です。確かに私は、ジャームッシュの映画が嫌いです。あれほどまでにスノッブな映画は他にはありません。アントニオーニもスノッブなところが好きにはなれません。アントニオーニは、彼なりに世界に対する考えを持って映画を作っていました。しかし、そのような見方はスノッブなものでしかなかった。ストローブとは大きく異なります。ストローブは、映画とはこうあるべきだという考えに基づいて、映画を作っています。世界に対する、生命に対する尊敬を少しだけ残しています。
HK 
 今日でも、ジャームッシュの映画は、世界中で人が集まります。おそらく、ドゥーシェさんの持つ嫌悪感は、世代の違いから来るものではないでしょうか。
JD 
 そうかもしれません。
HK 
 タランティーノの映画が出た頃、九〇年代に、映画の登場人物の質が変わりました。それまでの映画では、登場人物の「実存」が大きく問題になっていました。それが、ある時期を境に、皮肉っぽい登場人物しか受け入れられなくなってしまった。それまでの映画から、一定の距離を取った上で物語を語ることしかできなくなってしまいました。並行するようにして、観客も作品に向き合わなくなりました。そして、基本的に現代の映画は、些細な話を登場人物たちが物語るだけになっています。その行き着いた先にあるのがジャームッシュの映画です。
JD 
 いずれにせよ、彼がスノッブなことには変わりません。私は、彼に何度か会う機会がありました。あれほどまでにスノッブな人間を見たことがなかった。
HK 
 ニューヨークの文化の一つだと思います(笑)。若い人はジャームッシュが映画を通じて物語る話を、よく知らないからこそ楽しんでいる。関連してですが、現代の観客はシニカルな態度が主流になっている印象を受けます。一つの例ですが、先日、ヴィスコンティの『山猫』を映画館で見る機会がありました。どこかでこの映画について耳にしたであろう若い観客がたくさんいました。冒頭にカトリックの儀式の箇所があります。映画館の中が大きな笑いに包まれていました。
JD 
 何か笑うようなことがあったのでしょうか。
HK 
 よく分からないのですが、おそらくバート・ランカスターの動作がおかしかったのか、シチリアの習慣が奇妙なものに見えたのだと思います。
JD 
 そのような傾向はよくないと思います…。  〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテークブルゴーニュ)
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