ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評 書評|柿木 伸之(岩波書店 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月16日 / 新聞掲載日:2019年11月15日(第3315号)

ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評 書評
的確に思考の見取り図を示す
その難解な思想と生涯を丁寧に、わかりやすく紹介

ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評
著 者:柿木 伸之
出版社:岩波書店
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 ヴァルター・ベンヤミン(一八九二―一九四〇)の難解な思想と生涯を丁寧に、そしてわかりやすく紹介する新書である。ベンヤミンの評伝としては、約四〇年前に野村修『ベンヤミンの生涯』(一九七七年)が、巻頭にクレーの「新しい天使」の写真を掲げ、ベンヤミンの三つの天使テクストを導きの糸として初めて思想と人生の全体像を描き出し鮮烈な印象を残した。本書もまた「新しい天使」の写真とテクストを巻頭に掲げ、彼の言語哲学・文学研究・美学・歴史哲学について論述し、的確に思考の見取り図を描き出している。この四〇年の間に『パサージュ論』や原典批評版全集の刊行、伝記的事実の解明、国内外における研究の地平の広がりがあり、それらを豊かに吸収し、高い水準でコンパクトに紹介するという困難なことを成し遂げた力作であると言えよう。

ここでは、本書へのレスポンスの一つとして、ベンヤミン理解に関わる「歴史の天使」の叙述について述べたい。本書は「歴史の天使」をベンヤミンの「分身」(プロローグ)として描いている。「過去の記憶を今ここに呼び覚まそうとする天使の身振りは、新たな歴史可能性を暗示するものと言えよう」(18頁)「救済を成し遂げないまま、未来へ追い立てられる天使の姿は、ベンヤミンの運命を予言しているようでもある」(206頁)。これらは、『歴史の概念について』(一九四〇)第9テーゼ「歴史の天使」の描写をベンヤミンの歴史認識、運命に重ねた描写だが、そもそも歴史の天使にベンヤミンを重ねて視るべきだろうか。むしろ相対する生者の視点を持つべきなのではないか、というのが私の視点である。第9テーゼではこう記されている。「「新しい天使」と題されたクレーの絵がある。……歴史の天使はそのような姿をしているに違いない。私たちには出来事の連鎖が見えるところに、彼はひたすらは破局だけを視るのだ。……彼はきっと、なろうことならそこに留まり、死者たちを目覚めさせ、破壊されたものを寄せ集めて繋ぎ合わせたいのだろう。……」(右線は原文イタリック)。ここで「語り手」ベンヤミンはクレーの絵「新しい天使」を見つめ、そこに「歴史の天使」像を読み取る。その際、語り手はこの天使を「彼」と呼び、出来事の連鎖を視る生者の側を「私たち」と呼び、出来事のただ中で生きている生ある者の側に立っている。語り手は、この悲しみと願望に満ちた歴史の天使に対峙し、その願いを受け止めることを歴史哲学者の使命としたのだ。そして「救済」が可能なのは決して天使ではない、「かすかなメシア的な力が付与されている」のは、「私たち」生ある者だ、と第2テーゼで記していた。即ち、このテクストは、生あるベンヤミンが自らに課した歴史哲学的使命であると同時に死を目前にして遺した遺書でもあり、「救済」せよ!との願いと要求は、「私たち」読者に向けられている。そのように私は捉えている。

本書エピローグで著者は、ベンヤミンの辿った道を「瓦礫を縫う道」(「破壊的性格」)と捉え、それは「死者のためにこそ考えられる希望の余地であり、それは歴史と対峙する生者の批判的な作業によって切り拓かれなければならない」と述べている。上記の視点もまたこの道に通じていくものであり、この道を共有したいと思う。「ベンヤミンの哲学的な思考は、何かの手段にはなりえないかたちで、個々の生が、他の生あるものに呼応するなかでおのずから創造される次元へ向かっている。……ここには根源的な自由がある」という「あとがき」での記述にも共感しつつ。
この記事の中でご紹介した本
ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評/岩波書店
ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評
著 者:柿木 伸之
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評」出版社のホームページはこちら
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