ベニカルロの夜会 スペインの戦争についての対話 書評|マヌエル・アサーニャ(法政大学出版局 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月16日 / 新聞掲載日:2019年11月15日(第3315号)

ベニカルロの夜会 スペインの戦争についての対話 書評
三重の価値がある書物
内戦の史料、著者の思想の表明、スペイン人論として

ベニカルロの夜会 スペインの戦争についての対話
著 者:マヌエル・アサーニャ
翻訳者:深澤 安博
出版社:法政大学出版局
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 スペインの作家マヌエル・アサーニャは政治家でもあり、一九三一年の第二共和国の成立時には首相を二年務め、教育の世俗化や農地改革などの改革を断行した。三六年の内戦勃発直前には人民戦線政府の上に立つ共和国大統領となった。マドリードの攻防が激しくなり、共和国政府がバレンシアに移ると、自らもバルセローナに住んだが、三九年のバルセローナの陥落後はフランスに逃れた。フランスで組織した亡命政府の大統領を辞任し、メキシコへの亡命も健康上の理由から辞退したアサーニャは、その年のうちに死亡した。バルセローナ在住時に書かれ、三九年、ブエノスアイレスで出版されたのが本書『ベニカルロの夜会』である。カタルーニャ地方とバレンシア地方の境にあるベニカルロの街で、様々な立場の共和国支持者が現状について自らの思うところを語り合う内容になっている。国会議員や医師、作家、女優など十一人が議論を戦わせるこの作品は、劇場で公演されたこともあるらしく、確かに、戯曲として読むことも可能だ。

この種の書物には三重の価値があるに違いない。ひとつはもちろん、スペイン内戦の史料としての価値だ。国際旅団に多くの外国人が参加し、名だたる作家たちがそれについて書いたスペイン内戦は、今なお熱い議論と細かい研究の対象であり、かつ小説や映画などの霊感源であり続けている。内戦およびその前後の第二共和制スペインの内情は複雑であり、その複雑な政治情勢を十一人がそれぞれの立場から分析し解説しているのだから、内戦の価値づけの歴史には重要な一冊だ。訳者深澤安博による巻末解説や訳注が理解を助ける。

同じく深澤が巻末で提案しているように、これは革命や内戦についてのアサーニャの思想の表明として読むこともできる。メキシコの批評家アルフォンソ・レイェスは、右派の主張する「伝統」などよりアサーニャの言う「伝統」がはるかに広いと評価したのだが、レコンキスタや『ドン・キホーテ』なども引き合いに出して論じられるスペイン人論としても読める本書は、オルテガやウナムーノ、マダリアーガら、既に紹介されている思想家たちのスペイン論の横に置いて読むのも一興だ。

スペイン内戦という歴史的状況下で書かれた本書を、一種比喩的に、まるで現在の私たちの問題であるかのように読むのは、いささか強引だろうか。けれども、「社会的境界、宗教的境界が彼ら[反乱派]にとっては国の境界よりもっと大事」との政治家リベーラの観測を受けて、社会主義者パスツラーナが「国民的な愛国主義はもはやその凝集力を失ったということでしょう」と断言するとき、グローバル化などという語が前提とされる現在にあって、何らかの重要な境界線が従来の国境の内側に引かれているような私たちの周囲の状況のことを考えないでいるのは難しい。
この記事の中でご紹介した本
ベニカルロの夜会 スペインの戦争についての対話/法政大学出版局
ベニカルロの夜会 スペインの戦争についての対話
著 者:マヌエル・アサーニャ
翻訳者:深澤 安博
出版社:法政大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
「ベニカルロの夜会 スペインの戦争についての対話」出版社のホームページはこちら
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