歴史がおわるまえに 書評|與那覇 潤(亜紀書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月16日 / 新聞掲載日:2019年11月15日(第3315号)

歴史がおわるまえに 書評
時空間を自在に往来する
状況への批判を自らの文体、態度で示す

歴史がおわるまえに
著 者:與那覇 潤
出版社:亜紀書房
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 『中国化する日本』(文藝春秋二〇一一年)で一世を風靡し、近作『知性は死なない』で新しい表現方法を獲得した歴史学者。その與那覇氏による対談・時事論集がついにでた。與那覇氏の作品を知っている人は、彼の文章に溢れる圧倒的な博学と、斬れ味鋭い軽妙な批評精神に魅せられてきたことだろう。だが評者は、與那覇氏の文章には、どこかやさしさがある、と常日頃から感じてきた。そして今回の著作を手にして、その思いを新たにしたのである。

たとえば、巻頭には「新入社員に贈る一冊」と題した一文が収録されている。自身の就活経験をふりかえりつつ、偶然の選択の積み重なりで、今の自分があることに與那覇氏は気づく。いろいろな可能性があったと感じたとき、心に少し余裕をもつことができた。だから若者よ、就職して困難に出会ったとしても、今の自分以外の可能性に気づき、精神の「自由」を獲得してほしい――これが與那覇氏のメッセージであると思われる。

そしてその際、歴史学者としてSF大河小説を推している。個人よりも大きな流れ、大河のうねりを読むことを勧め、今の自分を鳥瞰することを促しているのである。

そう思いながら本書をめくると、多くの知識人との対談、そして時事評論が、氏の年来の主張を、そのまま体現していることがわかる。たとえば呉座勇一氏との対談や山本七平を論じた箇所で、南北朝時代、とりわけ後醍醐天皇への興味を語っている。その際、後醍醐天皇がカリスマ的な狂気を帯びた天皇であったのかどうか、実証的な観点から迫る呉座氏と、敗戦経験から評価をくだす山本七平、双方に與那覇氏は注目している。また明治以降の日本が西洋化ではなく、「中国化」したと論じつつ、同時に、文藝評論家・江藤淳の戦後中国観に注目する。幅広い学問分野と、中世から近代までを自在に論じる與那覇氏は、時空間を自在に往来する。

そして歴史から十分に養分を吸い取って筆で、一息に現代社会を論じて見せるのだ。宇野常寛氏との対談、あるいはマルクスに言及しつつ行われる現政権批評は、単なる現代政治批判ではない。そうではなく、「私たちが現代社会を論じる際、あまりにも歴史を無視していないか」という警告を発しているのだ。政権批判をしている私たち自身の手さばきに、今一度、注意を促しているのである。

確かに私たちは饒舌に、政治を、日本を論じている。だがあまりにも短期的に問題をしゃべっては捨て、一年前のことなど忘れて省みることもない。こうした状況への批判を、自らの文体で、つまり態度で示そうと與那覇氏はしているわけだ。

「長期的にみて、この国ではもはや歴史というものがゆるやかに壊死していくことは、避けられないように思います」(三五四頁)という文章からは、現状を葬送するような気分さえ、感じられる。それが與那覇氏の文体にやさしさを、あたえているのかもしれない。
この記事の中でご紹介した本
歴史がおわるまえに/亜紀書房
歴史がおわるまえに
著 者:與那覇 潤
出版社:亜紀書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「歴史がおわるまえに」出版社のホームページはこちら
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