汪兆銘と胡耀邦 民主化を求めた中国指導者の悲劇 書評|柴田 哲雄( 彩流社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 歴史・地理
  5. 東洋史
  6. 中国史
  7. 汪兆銘と胡耀邦 民主化を求めた中国指導者の悲劇の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月16日 / 新聞掲載日:2019年11月15日(第3315号)

汪兆銘と胡耀邦 民主化を求めた中国指導者の悲劇 書評
中国近現代史の初心者へ
「民主化」「ナンバー2」でひもといた、カップリング評伝

汪兆銘と胡耀邦 民主化を求めた中国指導者の悲劇
著 者:柴田 哲雄
出版社: 彩流社
このエントリーをはてなブックマークに追加
 絶望の闇にさしこむ一条の光――昨今、香港の民主主義が転機を迎えるなか、タイムリーな刊行を寿ぎたい。大漢奸・汪兆銘(一八八三~一九四四)と中国の良心・胡耀邦(一九一五~一九八九)を「民主化」「ナンバー2」でひもといた、カップリング評伝である。

専制政体を打倒して共和制をつくる――まこと汪兆銘こそ、摂政王・戴灃の爆殺を企てたテロリスト、かつヒーローであった。法政大学に留学し中国同盟会に参画。アナーキズムに親しむ。孫文側近として辛亥革命に挺身したがフランスに留学。国民革命のため帰国して孫文の死後、後継者になる。中山艦事件で失脚後、軍人・蒋介石の独裁を批判して民主化を唱えたが、日本の侵略の本格化にともない、汪蒋合作政権を樹立して、民主化の主張を封印。中国の未来を悲観して対日和平を唱えたことが日本側に利用され、傀儡政権の指導者にされ、漢奸の末路をたどる。

客家出身の胡耀邦は中学卒業後、職業革命家の道をあゆむ。国共内戦時、国民党のスパイの嫌疑(AB団)をかけられたが、長征に参加して革命に貢献。共青団など、主として教育畑で昇進したが、文革で失脚。温和でユーモアをたやさず他人を批判しない。経済改革派で政治保守派の鄧小平は復権すると、総書記に任用。対チベット政策の誤りを認め、日中関係を円滑化させるが、文革の再来を防ぐための政治改革、党政分離を模索中、失脚してしまう。胡耀邦の死は、天安門事件のキッカケとなった。

普通選挙一つ、まともに実施できず、民主化できない、大陸中国。経済発展にともない、胡錦濤時代に育まれた民主化の萌しも、今や摘まれようとしている。汪兆銘と胡耀邦。この二人の蹉跌は、救国・救党が民主を圧倒し続けた中国近代に起因するのではないか――李沢厚を援用しつつ、筆者はにらむ。中国の悲劇か。指導者の悲劇か。判断は分かれよう。はたまた、韓愈『原道』以来の、「公」の「私」(自由など)への絶対的優位の伝統、と解することも可能かもしれない。周りから常に担がれる堂々たる政治家、汪兆銘。教育者とはいえ、明哲保身を全うしたかにみえる党官僚、胡耀邦。汪と比較するなら趙紫陽の方が適任な気がしないではないが、内面まで丁寧にほりさげる手さばきは好ましい。爆殺未遂で収監中、秘かにとどいた妻・陳璧君のメモを、涙を流しながら呑みこんだ汪兆銘。その姿に、二・二六への関与を問われ、監房での取調中とどけられた「ほがらかに行きます」「おわかれです。……。史さん、おばさんによろしく」と書かれた紙片を呑みこむ歌人、齋藤瀏を重ねては失礼であろうか。青年の可能性を信じぬいた胡耀邦。中国の永遠性を信じ、売国奴として生を終えることを、革命に倒れた同志・先人にわびた汪兆銘。政治家としては、あまりにも詩人でありすぎた、革命家たちの悲劇であるのかもしれない。

高校生向け叢書だけに読みやすい。中国近代史の初心者にお薦めしたい。
この記事の中でご紹介した本
汪兆銘と胡耀邦 民主化を求めた中国指導者の悲劇/ 彩流社
汪兆銘と胡耀邦 民主化を求めた中国指導者の悲劇
著 者:柴田 哲雄
出版社: 彩流社
以下のオンライン書店でご購入できます
「汪兆銘と胡耀邦 民主化を求めた中国指導者の悲劇」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
柴田 哲雄 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
歴史・地理 > 東洋史 > 中国史関連記事
中国史の関連記事をもっと見る >