よい移民  現代イギリスを生きる21人の物語 書評|ニケシュ・シュクラ(創元社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年11月16日 / 新聞掲載日:2019年11月15日(第3315号)

よい移民  現代イギリスを生きる21人の物語 書評
社会の背景にある闇を内側から照らす
有色の人間であること、移民二世・三世の軋轢

よい移民  現代イギリスを生きる21人の物語
著 者:ニケシュ・シュクラ
翻訳者:栢木 清吾
出版社:創元社
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 ブレグジット、つまりEU離脱をめぐって、今イギリスは混迷を極めているが、本書はその社会の背景にある闇の部分を内側から照らし出すような総勢二十一人のエッセイを集めたアンソロジーである。テーマは「移民」と「人種」。本書の特徴は何といっても、その執筆者達が、イギリス国籍をもつ有色人種、つまり黒人、アジア系、エスニック・マイノリティの人達で、作家、詩人、戯曲家、俳優、ジャーナリストなど現在のイギリス社会において多方面で活躍している人達であるという点にある。このエッセイ集で語られているものは何か。共通しているのは肌の色の違いによる人種の壁である。本書を一読して驚かされるのは、ほとんどの執筆者が幼少期、肌の色の違いでいじめを受けたり、教育の場でも白人優位を意識させられたり、癒しがたい心の傷を負っていることである。それが原体験となって、この社会で「有色の人間であるとはどういうことか」ということを自らに問いかけ、今日まで見える、あるいは見えないところで大小様々な形で差別を受けながらもイギリス社会でいかに生きて来たかを各々が赤裸々に書き綴ったのがこのエッセイ集である。

二〇一六年秋に本書が出版されると、イギリスではこの種の本としては、異例のベストセラーになったという。マイノリティの有色人種による現在のイギリス社会への勇気ある一種の告発の書ともいうべき性格の本書が、ベストセラーになるとは、それだけ多文化社会である現在のイギリス社会が病んでいてその闇は深いことを物語っているといえよう。

イギリスは、移民受け入れ国として長い歴史があり、二〇世紀、特に第二次大戦後の復興期において、労働力不足の緩和対策として、旧植民地から多くの移民を受け入れ、他のヨーロッパの国に先駆けて多民族、多文化社会になったといわれている。その恩恵を受けてイギリス経済は戦後発展してきたにもかかわらず、有色人種の増加で、国内の異民族、異文化摩擦が増えたということも事実である。本書はまさにその軋轢を弱者の側から示すものであるが、その問題が移民一世ではなく、移民二世、三世の軋轢として展開されているので、問題がより複雑で深刻であることに注意をする必要がある。つまり自ら選択した移民ではなく、気付いたら自分が周囲とは肌の色の違う移民の子だったという問題である。両親の片方が白人の場合はもっと複雑な問題が生じる。一体自分は誰なのかというアイデンティの問題である。しかしそれは何もイギリスだけの問題ではなく、移民を受け入れて多文化社会になった国々の共通の問題でもある。

本書で叙述されている内容は、イギリスで初めての人種差別的行為の禁止を謳った人種関係法(一九六五、改正六八年)の理念に反することが、二十一世紀になった現在も行われていることを裏付けるものであるといえる。フランスのある社会学者の言葉によれば、移民に関して、イギリスは色にこだわり、フランスは文化を重んじ、ドイツは血統にこだわるとのことだが、本書を見る限り人種問題は現在もなお、イギリス社会では克服しがたい課題であることがよくわかる。本書で筆者にとって最も気になるのは、両親を難民として受け入れたイギリスに感謝しつつも、人種問題評論家としての活動に疲れ果て、「気に入らないのなら、出ていってくれ」という人種差別主義者の言葉に屈して、イギリスを出てベルリンで新たな故郷を見出したという移民二世の黒人ジャーナリストのエッセイである。ドイツでも難民問題を機に今、外国人排斥の声が日々高まっているからである。本書の随所にみられる差別を受けた人達の苦しみの声は、逆に多文化社会に何が必要かを問いかける声でもある。今年四月に外国人労働者の一部受け入れに踏み切り、多文化社会に踏み出した日本でも、本書はその声に耳を傾けてもらいたい一冊である。
この記事の中でご紹介した本
よい移民  現代イギリスを生きる21人の物語/創元社
よい移民  現代イギリスを生きる21人の物語
著 者:ニケシュ・シュクラ
翻訳者:栢木 清吾
出版社:創元社
以下のオンライン書店でご購入できます
「よい移民  現代イギリスを生きる21人の物語」出版社のホームページはこちら
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