クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて 書評|馬場 友希(家の光協会 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月16日 / 新聞掲載日:2019年11月15日(第3315号)

クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて 書評
その生物の特別な秘密の数々
自然が作り出した造化の妙、驚きに満ちた生物学の最前線

クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて
著 者:馬場 友希
出版社:家の光協会
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 芥川龍之介の「蜘蛛の糸」という小説は、地獄に落ちた犍陀多が天上から釣り下ろされた一筋の蜘蛛の糸を手掛かりに脱出を図ろうとするが、我欲が邪魔をしてその糸がやはり切れてしまうという救いのない話だけれども、ことほど左様にクモという生き物は糸を吐き出すことを特徴とするものである。あるいは山に行って藪漕ぎなどをするとクモの網が顔に絡みつき口などに入ってペッペッとなることもよく経験したものだが、その網のしくみ、組成、でき方、それに生態系における意義については、ついぞ調べる機会を逸していた。

本書『クモの奇妙な世界』は、本職のクモ学者が「その姿・行動・能力のすべて」(サブタイトル)について全力で書き下ろしたものであり、読めば読むほど自然が作り出した造化の妙に感心することばかりだ。たとえば、空間を横切って張られるあの見事な網の最初の一本の糸は、どうやってできるか。実はクモがその糸を分泌するとともに、風に流して向こう側に到達させるのである。運よく風が向こう側の壁にその糸を届かせてくれると、それを起点としてクモはその網を織り上げていくのだという。

クモはその糸を空中に放つことで、自ら風に乗って飛んでいくこともできる。これは「バルーニング」として知られるクモの分散行動で、「つま先立ち行動」という特有の体勢によって糸を風に流し、「うまく風に乗ればはるか遠く数百㎞以上先に移動できるといわれています」と著者は書く。つまり、これによって、大海の真ん中にある島にもクモが到達できるわけである。スケールは違うけれども、細胞そのものや細胞内小器官が糸状の突起を吐き出す現象がこのごろ知られるようになってきており、その観点からも非常に興味深く読むことができた。

クモの網には「円網」と「立体網」があり、いずれも巧妙な様式で獲物を捕まえる。カラカラグモ科のカラカラグモの仲間は、円網の中央部を糸で引っ張ったようなパラボラアンテナのような形の網を張り、クモ本体が網の中心部で網全体を糸で引っ張る形で待機しているという。「この網の近くに獲物が近づくと、その振動を感知したクモはそれまで引っ張っていた網をパッと放します。すると緊張状態にあった網は緩み、意味はまるで矢のようなすごい速度で飛んでいき、獲物を絡めとります」。また、立体網には「ノックダウン方式」と「ガムフットトラップ方式」という二種類の区別があり、いずれも魅力的な名前だが、網に衝突した獲物をうまく捕食するそれぞれのメカニズムが詳細に解説されている。

クモの網のことだけを追いかけてみても面白くて仕方がないが、その他、クモの生殖行動の機微や、ガのフェロモンと同じ物質を自ら出してガをひきつけて捕まえるクモや、アリに擬態するクモの話など、興味深い話題は尽きない。われわれは高度文明社会に住んでいて、ともするとすべてのことは「すでにわかっている」と錯覚しがちだけれども、このようにクモひとつとってみてもまだわかっていないことや、「わかってきた」ばかりの新知識だらけであり、「わかる」と「わからない」の境界は生活空間のすぐそこでせめぎ合っている。丁寧な筆致で書き進められた本書は、そのような驚きに満ちた生物学の最前線を万人に読みやすく解説した好著であり、眠れない晩の友としてこれほど適切な本はないだろう。
この記事の中でご紹介した本
クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて/家の光協会
クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて
著 者:馬場 友希
出版社:家の光協会
以下のオンライン書店でご購入できます
「クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて」出版社のホームページはこちら
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