ふるさとって呼んでもいいですか 6歳で「移民」になった私の物語 書評|ナディ(大月書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月16日 / 新聞掲載日:2019年11月15日(第3315号)

ふるさとって呼んでもいいですか 6歳で「移民」になった私の物語 書評
「イラン系日本人」になるまでの二十八年間
国際社会で共生するための出発点と羅針盤

ふるさとって呼んでもいいですか 6歳で「移民」になった私の物語
著 者:ナディ
解説者:山口 元一
出版社:大月書店
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 「異文化ルーツの当事者が、みずからの言葉で日本での暮らしを語ることは少なかった」「私の経験をレンズのようにして、統計上の数字ではない彼らの生活が、みなさんに想像しやすく伝われば、とてもうれしい」

一九八四年イラン生まれの著者ナディさんは、一九九一年に「出稼ぎ」の父親、母親と弟二人の家族五人で来日し、いつ強制送還されてもおかしくない状況を乗り越え、二〇〇一年に在留特別許可を得た。その後、大学卒業、就職、結婚、出産を体験し、「イラン系日本人」になるまでの二十八年間の苦しみと喜びの日々を生き生きと綴っている。

日本を単一民族国家だと思い込んでいる人たちに読んでほしい本だ。

「フリー・ザ・チルドレン・ジャパン」で知り合った編集者の岩下結さんに本を書くように勧められたのが十九歳の高校三年生の時で、十五年をかけて刊行された。

来日時は三カ月の観光ビザだけで、父親は、イランの友人のつてで、仕事先を確保して訪日したが、家族同伴であることを隠していた。子ども同伴だと分かると就職できないと思ったからだ。

ビザが切れて以降は不法滞在が続く。イラン人が多く住む地区に住んだが、子どもがいると目立って、超過滞在が摘発されると恐れた同胞の視線も温かくはなかった。アパート前の公園まで行ってもいいかなと悩んだ。「自分たちは重大な犯罪者のように感じていた私は、自分たちに許される行動範囲を、頭の中であれこれと考えていた」

しかし、引っ越しを機に、ゆいちゃんという女の子と出会ったことが転機となった。ゆいちゃんの両親はナディさんと弟たちをかわいがり、折り紙やあやとりなどを教えてくれ、日本語を学んだ。

イランの小学校に一年通っただけで、日本に来てからは学校に行けなかった。近くの市の公共施設で日本語教室が開かれているのを知り、毎週土曜日に通うようになり、教室で行われたスピーチコンテストで「日本の学校に入りたい」というスピーチを何回か行った。スピーチを聞いた人の尽力で公立の小学校に入ることができた。来日から三年後のことだった。

子どもを学校に入れるため、両親は外国人登録証明書を作った。そのカードの在留資格欄は「在留資格なし」だった。学校に通って一年後に、父親が警察官に二回拘束された。ナディさんは、初めてもらった学校の通知表やランドセルを見せ、「お願いです。ほんとうに勉強してるんです。捕まえないでください!」と頼み、解放された。

申請から一年半かかって、高校一年の時、特別在留許可を得て、市役所ではじめて健康保険に加入した。三回転んで足にけがをしたが、痛いのを我慢して、病院にほとんど行かず、じん帯が切れているのが後でわかった。保険証がないから高額の医療費を払えなかったのだ。

自分が日本で学校に入り成長できたのは、「いくつもの幸運のおかげ」「運がよかった」と書いている。特別在留許可を得て、十一年ぶりに里帰りしたイランで四十日間暮らして、自分のアイデンティティに悩んだ。「自分は何者か」と自問し、「中途半端な人」である自分と五年間葛藤した。同じ境遇の仲間との出会いから、「イラン生まれで日本育ち、中身はほぼ日本人。これが私。イラン系の日本人なんだ」という考えにたどり着いた。

日本の子どもたちを中心に、ナディさんを助け支えた日本人もいたことに生まれながらの日本人の私はほっとした。しかし、本書は、日本が先進国の中で最も冷酷で野蛮な入管政策を取り続けている国であることを示している。入国管理局(入管)は国家権力の最も原初的な権力で、国家が国民ではない市民の出入国に関し決定し、実力行使できる機関である。当事者の外国人は入管による決定、処分に不服申し立てすることができない。

日本政府は外国人労働者を「労働力」としか見ていない。景気のいい時は、積極的に入国させ、不法滞在に目をつぶる。今年四月から施行された「特定技能」労働者の受入れでも、政府は「移民政策はとらない」とわざわざ強調している。「研修生」「技能実習生」も、結婚や妊娠を認めないという残酷な条件をつけている。ナディさんの両親は工場で働いてきたが、時給はずっと七〇〇円で、ボーナスは五〇〇〇円だという。

巻末の山口元一弁護士の解説を読むと、日本の入管政策の封建性がよくわかる。日本は実質的には移民社会化している。日本の過去の侵略・強制占領に起因する在日朝鮮人、在日中国人の人たちも生活している。

「私たちは、見た目や国籍を超えて、同じ社会でともに生きています」。ナディさんが呼び掛ける「内なる国際化」に賛同する。日本がこれからアジアの東端で、国際社会で共生するための出発点と羅針盤が本書に示されている。
この記事の中でご紹介した本
ふるさとって呼んでもいいですか 6歳で「移民」になった私の物語/大月書店
ふるさとって呼んでもいいですか 6歳で「移民」になった私の物語
著 者:ナディ
解説者:山口 元一
出版社:大月書店
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