佐藤飛美インタビュー 「好き」を「もっと好き」にする参考書 「『ハリー・ポッター』について論文を書きたいので、教授、授業の題材にしませんか?」(小鳥遊書房)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年11月15日 / 新聞掲載日:2019年11月15日(第3315号)

佐藤飛美インタビュー
「好き」を「もっと好き」にする参考書
「『ハリー・ポッター』について論文を書きたいので、教授、授業の題材にしませんか?」(小鳥遊書房)刊行を機に

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第3回
予言は運命か選択か/ 「一方が生きる限り 他方は生きられぬ」

――4章ではハリーが見た全ての夢を5頁にわたって一覧表にし、非常に細かく分析しています。実際は、どのように進めていかれたのでしょうか。
佐藤 
 まず夢と無意識に関する描写に注目して読み、さらにハリーの夢を一つずつ書き出していく。そこから夢だけに重点を置いて分析する作業をしました。夢は無意識の集合体なので、ハリーの心がどのように変化していくのかよく分かります。それにしても、ハリーが見るのはほとんど悪夢。かわいそうになりました(笑)。

――ハリーとヴォルデモートは「一方が生きる限り他方は生きられぬ」という予言を受けていますが、この章では「予言と選択」の問題も扱っています。
佐藤 
 予言や占いによって運命が定められてしまうのか、それとも予言された本人が自らの進むべき道を選択し、結果的に予言どおりになるのか。例えば「運命」と言うとロマンチックで、「宿命」と言うとドラマチックな響きがある。けれど、「全てはタイミングの問題だった」と言ってしまうのは責任回避な気がします。タイミングもあるかもしれないけれど、自分の選択の積み重ねの上の結果であることの方が多いからです。

それを簡単に運命だと言ってしまうと、全ては決まったレールの上にあるという考えになります。とてもつまらない考え方だし、責任感もない。自分の人生の航海士は自分だと思った方が、前向きにもなれます。何よりも人生の選択を、運命やタイミングといった一言で片付けたくはないですね。

――5章「占い」では、登場人物を占星術やタロットで実際に占っています。なぜ登場人物を占おうと思ったのでしょうか。
佐藤 
 個人的に占いが好きなので、どうしてもそれで一章成り立たせたかったんですよ。ローリングは杖と同じように、少なくとも、ハリーとヴォルデモートに関しては、占いを意識して書いていたのではないかと思います。例えばハリーは、獅子座なので占星術だと「王者」の星座、タロットでは「力」です。彼に関しては、占う前から結果が見えていたところもあったので、他の人も見てみたいと思いました。ちなみにヴォルデモートは山羊座なので、占星術では「力」が重要な星座、タロットでは「悪魔」でした。

――6章では最初に、焚書行為などについて触れています。物語からは少し離れた内容ですが、この話題を入れた狙いをお聞かせください。
佐藤 
 『ハリー・ポッター』はファンの多い作品ですが、実は国外では図書館が禁書指定にしたり、検閲騒動があったりと批判も多いんですね。宗教、特にキリスト教が深く関係していますが、日本の読者にはあまり馴染みがないことだと思います。ただ、たとえ身近でなくても、宗教が強い影響力を持つ文化圏では、作品をめぐってどのようなことが生じるか。知っておいて損はない話ですし、本を読むときにも見方が変わってくるのではないかと思い、この項を設けました。

――なぜキリスト教的視点から『ハリー・ポッター』を分析したのでしょうか。
佐藤 
 原文には実際、聖書の言葉が登場し、大きな意味を持っています。日本語の翻訳だけで読んでいると、どうしても宗教的な部分は理解しにくい。日本で刊行されている類書には、宗教について深く触れたものがあまり見つかりません。しかし、本文中にはしっかり書き込まれているので、そのまま読み飛ばすより、焦点を当てることで物語の深みがぐっと増すと思ったからです。

――ハリー、ダンブルドア、教授のスネイプを、キリスト教の「愛」の観念である「アガペー」(他者本意の愛)と、「エロース」(自分本位の愛)を通じて分析しています。執筆中、改めて気がついた点はありますか。
佐藤 
 ダンブルドアは非常に賢く、慈愛に満ちた存在として描かれているのに、どうしてヴォルデモートにだけは情け容赦ないのか、ずっと不思議に思っていました。その理由が、「アガペー」「エロース」の面から分析してようやく分かった気がします。ダンブルドアには若い頃の自分と、ヴォルデモートが重なって見えたのだと思います。一時期、ダンブルドアはヴォルデモートと同じように「死を征服したい」という考えを持ったことがあります。そのせいで、妹を失い家族をバラバラにしてしまった。
自らを赦せないダンブルドアは、自分の鏡像に見えるヴォルデモートも赦せない。『ハリー・ポッター』は色んな人の失敗が見える物語です。ダンブルドアも含めて、誰一人、完璧な人間はいない。そこに注目すると、また新しい読み方ができると思います。
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この記事の中でご紹介した本
ハリー・ポッター』について論文を書きたいので、 教授、授業の題材にしませんか?/小鳥遊書房
ハリー・ポッター』について論文を書きたいので、 教授、授業の題材にしませんか?
著 者:佐藤 飛美
出版社:小鳥遊書房
「ハリー・ポッター』について論文を書きたいので、 教授、授業の題材にしませんか?」は以下からご購入できます
「ハリー・ポッター』について論文を書きたいので、 教授、授業の題材にしませんか?」出版社のホームページはこちら
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