中平卓馬をめぐる 50年目の日記(32)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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中平卓馬をめぐる 50年目の日記
更新日:2019年11月18日 / 新聞掲載日:2019年11月15日(第3315号)

中平卓馬をめぐる 50年目の日記(32)

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「フォトクリティカ」創刊号特集に執筆を依頼する役は結局全部私になってしまった。

だが、中平さんが推した小林祥一郎さんを私は全く知らない。「太陽」の編集長だった人、としか彼も言わなかったが、「太陽」ならグラフィックな総合雑誌として学生の私たちの間ででも関心の的。そういうところの編集者なのだから写真にも相応な知識を持っているんだろうなと自分で自分を納得させて小林さんに電話をした。

きっとたどたどしく訪問の趣旨を説明して原稿を書いていただきたい、ついては話を聞いていただけませんかと電話したのだと思う。

麹町の平凡社を訪ねるとどこかの小部屋に案内されてはじめて小林さんにお目にかかった。初代の谷川健一から引き継いだ「太陽」二代目編集長を退いた直ぐ後だったようだ。だから会ってもらえたのかも知れない。しかしその時は小林さんがどんな人なのか、どのような仕事をしてきた人なのか、その下調べをすることさえ思いつかず、ただ一方的にこちらの事情を話し、そして、「偶像化されたキャパ像はそのままでいいのかどうかについて書いていただけませんか」とお願いしたのだと思う。

小林さんは微笑みながらしばらく無言だった。何と藪から棒に突拍子もないことを言うやつだろう、と始末に困っていたのかも知れない。私は特集で他にどんな方々にお願いしようとしているかも話した。するとようやく私の居場所が想像できたのか、「中平卓馬さんのクライン論は楽しみですね」と言った。
「大辻さんが書くナギも勉強になりますね」
「いや大辻さんにはまだお話をしていませんので書いていただけるかどうか」。「いや、ぜひお願いしたらいいですよ」とすっかり企画指導を授かっているような話になった。そして、「私にはここにある方たちのような写真に対する知識がありません。お断りした方がいいと思います」と告げられてしまった。
「ではどういう人にキャパを論じていただくのがいいと思いますか」と私は、食い下がると言うより正面から相談の姿勢になった。小林さんはまたしばらく無言になって、「いやー思いつきませんねえ。……やはり書いてみようかな。と言うより書き試してみようかな。キャパについてちょっと思うところが浮かんできたので。でもそんなに長く書ける内容じゃない。少し考えさせてください。二三日後に電話をくれませんか」

私は二日間何も手をつけないで電話する機会を待った。そしてぴったり二日後の午後、電話をかけた。
「自信はありませんが、返事を引き延ばしても困るでしょうから、やってみるということにします。でも内容がダメだったら没にすると言う約束をしてください」

学生がつくるどんな雑誌になるかも分からないのに、そう答えてくださった小林さんには感謝した。「よろしくお願いします。二週間経ちましたら一応催促の電話をまたさせていただきます」と言って電話を切った。
「こういう内容で、こういう執筆者なら私の所でやりたいくらいですよ」とはじめにお願いをした時に小林さんが言ってくれたことを思いだして、そんな面白い雑誌になるかも知れないんだ、と嬉しかった。

もちろん中平さんには「小林さんが受けてくれました」と報告。「ヨシ。いい出だしだね。口説き落とすのって面白いでしょ」と編集者時代を思いだすかのように楽しそうに笑った。(やなぎもと・なおみ=写真家・東京造形大学名誉教授)

   (次号へつづく)
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