ケベック詩選集 北アメリカのフランス語詩 書評|立花 英裕(彩流社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年11月23日 / 新聞掲載日:2019年11月22日(第3316号)

ケベック詩選集 北アメリカのフランス語詩 書評
色とりどりの輝きを放つケベック詩
北米大陸の風土や気候が詩人の精神世界と照応しあう

ケベック詩選集 北アメリカのフランス語詩
著 者:立花 英裕、真田 桂子
翻訳者:後藤 美和子、佐々木 菜緒
出版社:彩流社
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 詩選集の読書は独特の喜びをもたらす。地域や時代、あるいはテーマや流派などを基準に選ばれた複数の詩のあいだにその共通因子をたどっていくおもしろさに、それでも一篇一篇の詩、ひとりひとりの詩人に見えてくる個性を見出す愉しさが重なってくるからだ。しかしそれが、北米大陸の北東に位置するケベックの地で生まれ、育まれてきた詩となると、そもそもの共通因子に一種のねじれがふくまれている。十七世紀初頭にフランスの植民地となったカナダが十八世紀に英国に譲渡されたのち、ケベックにわずかに残ったフランス語系住民のなかから生まれて来た詩が起源となっているからだ。つまりケベック詩の書き手は、カナダの先住民族を支配した植民者の子孫であると同時に、あとからやって来た英国の植民者から抑圧される立場にいたことになる。だからこそ、ヨーロッパで盛んになっていたロマン主義の影響を受けて共同体的なテーマを取り上げ、一種の愛国主義的な詩を書くことになる。愛国的と言っても、もともとの本国フランスとは遠く離れ、すでに独自の文化を造り上げていたケベックを称揚するものであったが、その一方で、ヨーロッパ文化の伝統に根ざし、その影響を受け続けている面もあり、いわばフランス文化に新大陸の感受性を接ぎ木した詩とならざるをえなかったのである。

今回刊行された『ケベック詩選集 北アメリカのフランス語詩』は、これまでまったくと言っていいほど知られていなかったケベック詩を多数紹介しているという点ですでに画期的であるだけでなく、ケベック詩の専門家であるピエール・ヌヴーの序文、そして訳者のひとりである立花英裕のあとがきも添えられていることで、すでに述べたようなケベック詩独特の複雑な歴史的・政治的背景を見据えつつ読み進められるアンソロジーとなっている。印象的なのは、その民族的とも言える詩のなかにおいても、北アメリカの風土や気候が大きな影響を与えていることで、しかもそれが、個人の内面の描写と反響しあっているのである。フランスの象徴派やバイロン、アラン・ポーなどの影響を受けた早熟な詩人であり、十九世紀末のケベック詩に一大転機をもたらしたとされるエミール・ネリガンは、「嗚呼 雪が雪降る/生きることの疼痛よ 答えておくれ/私が抱く 私が抱く 憂鬱に」と訴え、二十世紀の新しいケベック詩をもたらしたとされるアラン・グランボワは、「辱められた星々の大地よ/(…)/おまえの地の肌は心を突き刺す」と歌ったのだ。あるいは、第二次大戦後の世代にとって重要な役割を演じるガストン・ミロンの有名な詩句「私が他国へと旅したことなど一度たりとない/おまへと旅しているのだ 私の国よ」もそうだが、その壮大なスケール感は、同じフランス語で書かれていても、フランスやベルギーなどのヨーロッパの詩にはなかなか見られず、まさにケベック詩ならではの魅力であり、しかもそれが詩人の精神世界と照応しあうことで、色とりどりの輝きを放つのだ。

もちろん、個性豊かなケベック詩には、非常に繊細な作品も多数あり、そのあたりは実際に本書をひもとくことで味わっていただきたいが、そうしたケベック詩の多彩さは、二十世紀後半以降、先住民族やさまざまな地域からの移民の作品も加わることでさらに際立つものになっている。まさに、頁をめくるごとに新しい世界が立ち現われてくるという、詩選集ならではの贅沢さを満喫できる一冊である。
この記事の中でご紹介した本
ケベック詩選集 北アメリカのフランス語詩/彩流社
ケベック詩選集 北アメリカのフランス語詩
著 者:立花 英裕、真田 桂子
翻訳者:後藤 美和子、佐々木 菜緒
出版社:彩流社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ケベック詩選集 北アメリカのフランス語詩」出版社のホームページはこちら
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